昭和考古学とブログエッセイの旅へ

昭和の遺物を訪ねて考察する、『昭和考古学』の世界へようこそ

データを盗むと犯罪なのか?

毎日、車の中でラジオを聞きながら通勤しています。
田舎なので渋滞も満員電車もなし。オラの(淡路)島には電車がねえ!って吉幾三の歌みたいですな(笑)
ラジオで流れる関西の高速道路の渋滞情報や鉄道の遅延情報も、まるで遠い異国の出来事に聞こえます。

 

そんなのんびりとしたいつもの朝のこと、あるニュースが耳に入りました。

 

mainichi.jp

大阪の社会保険機構の職員が、元上司に指示され年金データを、PCから盗んだ容疑で逮捕されたという事件です。
事件自体は、あってはならない事だけれども、特になんということはない。
犯人の苗字が「くずにし」と聞こえ、え?と思って新聞サイトを見ると、「葛西」と。これって「かさい」ちゃうのん?
アナウンサーが読み間違えたということは否定できないものの(ないとは思う)、ふつうは「かさい」と読む。いやはや日本語は難しいなーと。

しかし、今回の本題はここではありません。

 

 

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職員の容疑は「窃盗」。ご存知のように盗みの罪ですね。しかし、ここが引っかかります。
「年金データを盗んだ罪」ではありますが、年金データは「モノ」ではありません。
「モノ」ではない以上、窃盗罪にはならないはず。

まさか警察が罪状間違えたということはあり得ないので(逮捕状を発行した裁判所が間違えてるということになる)、これは何らかの理由があるに違いないと、調べてみました。

 

 

おさらい:『盗む』罪について

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人のものを盗んだ罪は『窃盗罪』です。こんなものは知ってる知ってない以前の常識です。え?知らなかった?なら覚えとけ(笑

法律には「法の不知を許さず」という概念があるので、知らんかったは通用しまへんで。

 

窃盗罪は刑法第235条に規定されています。

 

第235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

 

窃盗罪は『第36章 窃盗及び強盗の罪』に入っている罪状で、強盗の親類にあたる罪となります。
章の中には「未遂罪」もあり、未遂ももちろん刑法により罰せられます。

しかし、窃盗罪にはちょっとした、しかしけっこうデカい穴があります。

”他人の『財物』を窃取した者は”

『財物』つまり「モノ」のみ。実体のある「モノ」でないといけないのです。
では、「モノ」ではない、目に見えない、触れるものもできないものを盗んだらどうなるのか。

そんな例が過去にありました。

 

電気窃盗罪


たぶん明治時代だと思いますが、電線から「電気」を盗んだ輩がいました。
当然捕まりますが、被告本人か弁護士はこう言ったのでしょう。


「電気は『モノ』じゃないから窃盗罪に当たらない。よって無罪でーす」

 

こういう屁理屈は、裁判ではちょくちょくあります。
昭和14年(1939)11月に、現存しない私鉄のガソリンカーが脱線した列車事故がありました。
「ガソリンカー」とはディーゼルカーの元祖のようなもので、ディーゼル(軽油)ではなくガソリンで走っていたのが大きな特徴です。大正時代後期から現れたのですが、燃費が悪い・めちゃ危険(すぐ燃える)ということで短期間で廃れた気動車です。
事故を起こした運転士が『汽車電車転覆罪』という罪で逮捕・起訴されますが、弁護人が、

「鉄道又ハ其標識ヲ損壊シ又ハ其他ノ方法ヲ以テ汽車又ハ電車ノ往来ノ危険ヲ生セシメタル者ハ二年以上ノ有期懲役ニ処ス」

「汽車又ハ電車」に目をつけました。

「運転していたのはガソリンカーなので『汽車』でも『電車』でもない。『汽車電車転覆罪』に当たらないから無罪」

なんという屁理屈か!と遺族なら怒り心頭ですが、これも法律の穴。

これで揉めに揉めたか、審理は大審院(今の最高裁判所)までもつれた結果、ガソリンカーも広義の「汽車」にあたると有罪になりました。
しかし、これはあくまで特例として処理されているので、JR東日本が所有している蓄電池電車EV-E301系が非電化区間で事故ると、さてどう処理されるのだろうか。

この列車は「電車」なものの、充電したバッテリーで電気がない非電化区間も走ることが出来る電車。関東・東北では既に運用されている電車です。

しかし、法的な電車はパンタグラフを通して架線から電気を取り・・・というものなので、電化されていない区間を、充電した電気で走るのは「電車」なの?電車じゃなかったら一体何なの?という法解釈が必ず生まれるはず。

 

電気は「モノ」ではないので無罪。
これもとんだ屁理屈ではありますが、法律の不備を突く重要な指摘となりました。
おそらく一審・二審は無罪だったのでしょう、最終的に大審院の出番となりました。

ここで、大審院の有名なお裁きが生まれました。
「電気は財物(モノ)とみなす」
それがそのまま刑法第245条、
「この章(上記第36章)の罪については、電気は、財物とみなす
となって残っています。

電気なんて盗むわけ・・・とお思いでしょうが、他人の家で携帯電話を勝手に充電しても「窃盗罪」です。8年前、大阪の松原市でコンビニのコンセントで携帯を充電した中学生が、窃盗罪で現行犯逮捕されています。

 


あと問題なのは「水」。電気はわかったけれど、水を盗んだらどうなるの?
刑法には「水は財物とみなす」なんてどこにも書いていません。さてどんすんのと。
しかし、公園の水道から水(550円分)を汲み生活用水として使っていた人が逮捕された事例があるので(何の容疑で逮捕されたんやろか?)、水もアウトとみなして良いでしょう。


この窃盗罪には、面白い規定があります。

第244条
1.配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する
2.前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

「親族間の犯罪に関する特例」というのですが、子供が親の財布からお金を盗んでも、理屈では窃盗罪です。しかし、親子どうしの盗んだ盗まないまで処理するとキリがないので、
「家族同士の窃盗罪は被害届出さない限り無罪」
という特例を設けています。
無罪と聞けば響きがいいですが、要するに、

「家族間の盗みは家族トラブルやから、家族の話し合いで解決してくんなはれ!いちいち裁判所に持ち込んでこんといてや~!」

ということです(笑)


デジタルデータは「モノ」なのか


時代が平成になり、デジタル全盛の時代になると、違う問題、違う「モノ」が発生しました。そう、情報です。
パソコンやスマホの情報、つまりデータを盗むとどうなるのか。

「データ」は実体を伴う「財物」ではありません。「データを財物とみなす」という条項も存在しません。

この「情報窃盗罪」(仮称)は、刑法には存在しません。端的に言うと無罪。法律が時代に追いついていないのです。
「刑法が定める窃盗罪の対象には、情報は含まれていません」
という専門サイトでの弁護士の回答もありました。
デジタルデータは「財物」ではないので刑法では罰せられないのですが、代わりに別の法律を制定しています。


不正アクセス禁止法

不正アクセス禁止法という言葉を、ニュースでたまに聞くことがあると思います。
平成11年(1999)に制定された法律で、正式名称は「正式には不正アクセス行為の禁止等に関する法律」。
時代の変遷ととも合わせちょくちょく改正されています。

 

不正アクセス行為の禁止等に関する法律


第三条に「何人も、不正アクセス行為をしてはならない」と書かれているので、不正アクセスしたらダメなのだなということはわかります。
さて、「不正アクセス」の定義とはなんぞや。
内容は第三条に書かれているのですが、コピペしても意味がさっぱりわからないので、噛み砕くとこうなります。

 

1.インターネットやLANを通して、パスワードなどで保護されている他人のPCなどの機器にアクセスし、パスワードや生体認証などをくぐり抜けること

2.ハッキングでパスワードなどで保護されている他人のPCなどの機器にアクセスし、中身を見たりすること

3.パスワードなどを不法な手段で知り、それを利用して他人のPCなどにアクセスすること

 
多少解釈が間違っているかもしれませんが、その時はご了承を。


禁止行為をすると、罰則もあります。

第十一条

第三条の規定に違反した者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

また、不正にパスワードなどを入手した場合、第12条1項に規定があり、1年以下の懲役/50万円以下の罰金となります。けっこう厳しいです。


不正アクセス禁止法の実例

1.同僚のFacebook覗き見事件
会社の隣の席の同僚のFacebookのパスワードを知り不正にアクセスした例です。
パスワードは覗き見したわけではなく、適当に入力したらヒットしたそうです。
それでも他人のSNSにアクセスしたということで、アウト。

 

2.ハッキング事件
佐賀県の17歳が、佐賀県教育情報システムにハッキングし、1万人分の個人情報を流出させた事件です。去年か一昨年の話だったので、おぼろげに覚えている人もいるかもしれません。
17歳でハッキングできる能力はかなり高い方なので、それを良い方向に使ったら社会の役に立ったでしょう。
しかし、知識・能力を悪用して終わりました。これを下衆の猿知恵と言います。

 

3.フィッシング行為

一時期、7~8年前まででしょうか、下心を出してしまいちょっとエッチなサイトをクリックすると、
「閲覧料8万円いただきます!!」
なんてものが流行ったことがあります。そしていつの間にか個人情報が盗まれ、請求の電話までかかってくる。
スケベな男性諸君は、一度は覚えがあるでしょう( ̄ー ̄)
はい、私も何度か(笑)

それはさておき、これは法的にはフィッシング詐欺と言い、不正アクセス禁止法の禁止行為に入っています。


こういう場合はOK

しかし、何がなんでも不正アクセス禁止法で罰せられるわけではありません。

法律による「不正アクセス」の定義は、インターネットやLANなどの電気通信回路を通じていることです。
逆に言えば、ネットを通していないアクセスはOKということなのです。

典型的な例が、スマホのロック解除。
あれは解除にインターネットを介していないので、罰せられることはありません。たとえ中を見てやろうと悪意を持って解除したとしても。

Excelなどのシート保護も、同じ解釈で問題なしだと思います。

しかし、Yahoo!Gmailなどの、ネットを通さないとアクセスできないクラウド式メールの場合は、アウトの可能性があります。
(実例がないので、なんとも言えませんが)


では、「他人のメールやLINEなどを覗き見した場合」はどうなのか。
おそらく、こういう解釈ではないかなと。

 

① メール画面になっている他人のスマホを持ち、見る、覗く:SAFE

 

② 画面が消えたスマホのロックを解除すると、たまたまメール画面になっていたので見た:SAFE

 

③ 前半は②と同じシチュエーションだが、「LINE見てやろ」とLINEのアプリを立ち上げた
:弁護士によると、過去ログを見るくらいならSAFEでしょうとのこと。

 

④ ③と似たシチュエーションだが、LINEではなくGmailだった。パスワード入力画面はなく、アプリを立ち上げたら見ることができた

:法律を額面通りに解釈するとSAFE。しかしケースバイケース。

 

⑤ ④とほぼ同じシチュエーションだが、適当にパスワードを入れたらそれが当たりで、中身が見れた
:確実にOUT


不正競争防止法

また、不正競争防止法という法律もあります。
これは主に業務上の行為に対する禁止条項で、「自己の利益」のために「営業上の秘密」を盗んだりコピペしたり、カメラで撮影したりするとアウトです。

大手日本企業の元エンジニアが韓国企業に転職した際、会社の研究データをフラッシュメモリに保存し手土産にしました。
転職先も韓国だったので日本側は泣き寝入りかと思われたのですが、結果は
・韓国メーカーが日本側に330億円の支払い
・持ち出した本人は懲役5年、罰金300万円の実刑判決
となりました。韓国メーカーへの実質的な「罰金」が莫大なので、たぶん韓国側がそそのかしたのでしょう。


しかし、これはあくまで「業務上」
プライベートの場合、例えばパスワード保護されていない友達のPCのデータをSDカードに保存して持って帰ったとかはどうなるか。
これって・・・マジでどうなるんでしょ。該当する法律が見つからないのですが・・・(汗)

 

さて、上の事件は何故「窃盗」なのかという本題

この本題を忘れておりました(笑)

年金の番号をPCから盗んだ行為は、他人のPCやサーバーからなどなら、「不正アクセス禁止法」や「不正競争防止法」違反にあたります。
この容疑であれば、私はこのニュースに飛びつきはしませんでした。
しかし、容疑は窃盗。警察も当てずっぽうで逮捕したわけではありません。

窃盗と上記法律の区分はどこにあるのか。

 

新聞記事を読むと、その理由がよくわかりました。


「情報をプリンターで印刷し、紙を持ち出して盗んだ」


実行犯は「紙ベース」で持って行ったことが「窃盗罪」に触れたようです。
また、フィルムカメラで撮影しても「財物」とみなされ同罪です。
しかし、これがデジカメになるとどうなるか。なんと窃盗罪としては無罪なってしまいます。これが現法律の穴だったりします。

実際は「不正競争防止法」や「不正アクセス禁止法」に引っかかる可能性がありますが、プライベートな行為では、相手のID・パスワードで不正アクセスしない限り何の罪にも問われません。
極端に言えば、パスワード保護されていないPCで友達がブログ管理画面にアクセスし、ブログを勝手に編集されたり削除されても全く文句は言えません。
「パスワード保護していないお前が悪い」というのが、現法律での答えです。

 

PCやスマホは今や欠かせない生活必需品となりました。
しかし、その割には、プライベートのデータ管理やセキュリティが甘いのも現実。
プライベートの現場では、SDカードを盗むと窃盗罪ですが、カードの中のデータを盗まれても泣き寝入りです。
ここで、自分のデジタルデータの管理を見直してみる良い機会かもしれません。
こう書いている私が、いちばんセキュリティが甘すぎてスキだらけだったりしますが(笑)

 

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