昭和考古学とブログエッセイの旅へ

昭和の遺物を訪ねて考察する、『昭和考古学』の世界へようこそ

『探偵ナイトスクープ』のアホバカ分布図 各地方の「アホバカ」表現編

関西の人気テレビ番組『探偵ナイトスクープ』で、今から27年前に視聴者からの素朴な疑問から始まった「アホバカ分布」のことを先日お話しました。

 

parupuntenobu.hatenablog.jp

 

上の記事を見ていない方は、まず上の記事からどうぞ。

そうでないと、おそらく今からの流れがわからないと思うので!?

 

関西人の言う「6チャン」ことABCテレビが予算をつぎ込み、全国の教育委員会すべてに、

「オタクの地域の『アホバカ』は何と言いますか?」

というアンケート用紙を送り、電話での問い合わせも含めて「すべて」から回答を得ました。

その結果、出来上がった地図、タイトルにもなっている「アホバカ分布図」が出来上がりました。

それが下の地図です。

 

アホバカ分布図

探偵ナイトスクープ』らしいとも言えるし、らしくもないと言えるこの「アホバカ分布図」を見ると、実に面白いことがわかるのです。

「アホバカ」は、全国で約320種類の言い方があるのですが、いちいち挙げていたらキリがないということで、『アホバカ分布図』は言語学者の監修のもと上位23種を中心に挙げています。

この分布図は、気合が入りすぎて印刷しすぎたらしく、当時の『探偵ナイトスクープ』の収録見学者に無料で配られていました。しかし非売品のため今は幻の品になっています。ぶっちゃけ、私もこの完全な形で写っている分布図の画像を探すのに、どれだけ苦労したか。

しかし、それだけあって拡大したりして細かく見ていくと、言語や方言に興味がある私にとっては、手に汗握ると言って良いほどの面白さでした。

 

その方言分布を、今回はひとまず地方別に分けてみます。

 


北海道

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北海道は「バカ」も主流ではありますが、

「ハンカクサイ系語(ハンカ・ハンカタレ等)」

「タクラダ系語(タクランケ)」

の分布が多くなっています。
函館など南部に行くと、東北地方のメジャー「アホバカ」である「ボンチナシ系語(ボデナシ等)」も多く分布しています。北海道でも、東北地方に近い場所は言語的に東北の影響を受けていることが、「アホバカ分布図」から伺えます。

 

北海道の分布は、他の地方と明らかに違う特徴があります。

他の地方は、ある言い方が一定の地域に固まっていることが多いです。たとえば、関西の『アホ』や東海地方の『タワケ』、前回述べた富山・石川の『ダボ』などです。

しかし、北海道は「バカ」「ハンカクサイ」「タクランケ」などが島のように点在しているのが大きな特徴です。

例えば、札幌は「ハンカクサイ」、旭川は「バカ」となっていますが、札幌や旭川市民の多数派となっているとは限らない。札幌出身の知人・友人も何人かいましたが、全員「バカ」だった気がします。「ハンカクサイ」や「タクランケ」と言ったら、まず私が聞いたこともない言葉に、なぬ!?それはどういう意味や!?と反応するはずです。

北海道は移民が切り開いた土地も多いので、「アホバカ」も自然と開拓民の故郷の言葉がそのまま残ったのではないかと、私は推定しています。ほんの数カ所ながら「アホ(ウ)」の場所もありますが、おそらく関西か四国の人が移住した地域なのかもしれません。

 

東北地方

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東北地方は、

「ボンチナシ系語(ボデナシ等)」

が多くなってきます。
しかし、青森県を中心に北海道に多い「ハンカクサイ系」も混在しており、青森・秋田・岩手は「ボンチナシ」「ハンカクサイ」「バカ」がほぼ均等です、地図を見た限りでは。
山形県に行くと「ボンチナシ系」濃度がかなり薄くなりますが、隣の宮城県岩手県と並び「ボンチナシ系語」の大帝国です。
「ボンチナシ系語」の勢いは宮城県までのようで、南下し福島県に入ると一気に「バカ系語」の勢力圏に入ります。

実は昭和初期くらいまでは福島も「ホンジナシ系」の範疇で、地元の人はその系統の言葉を使っていたのですが、戦後に「バカ」が急激に浸透し、今は死語となった模様です。関東を中心に定着していた『バカ』が北上している様子がわかります。

「バカ」の北上は福島県の「ヘデナシ」という「ホンジナシ系統」の言葉を滅ぼし、今や宮城県南部を制覇しようとしているのが、現在時点での状態です。

 

 

ハンカクサイ語圏@アホバカ分布図

おもしろいのは、東北の「ハンカクサイ語圏」が日本海側に集中していること。太平洋側は「ホンジナシ語圏」が多く、この配置はすごくミステリアスですが、高校の日本史程度の近世経済史、流通史を知っていれば、容易にあることを思い浮かべることができます。

推定ですが、大坂からの西廻り日本海航路、『北前船』がキーになるのではないかなと。

北前船』は大坂を始発、日本海側の東北地方・北海道南部を終点とした定期航路です。この風待ち港を中心に上方文化が残っていることは知られていますが、「ハンカクサイ」の「ハンカ(半可)」は元々京・大坂の色街で流行った言葉なのは文献から明らかです。

関西人は今でも「アホくさい」「貧乏くさい」「ウソくさい」など「~くさい」を着けることがよくあります。「ごめんくさい」という吉本新喜劇のギャグもあります。

なので、江戸時代、それも初期に「半可」が生まれ、時代と共に「くさい」がつき、『北前船』と一緒に伝わった可能性は否定できません。実際、北前船の風待ち港だった石川県の能登半島西部や新潟県の粟島、青森県鰺ヶ沢町などに、周囲の「ダラ」「ホンジナシ」とは一線を画す「ハンカクサイ」系統のことばが残っています。

 

 

関東・甲信越地方

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関東は「バカ」が圧倒的多数ではあるのですが、異彩を放っているのが茨城県と栃木県です。
茨城県は、

『ゴジャ』『ゴジャッペ』

というエリアが多く、それは千葉県北部(茨城県との県境付近)にまで及んでいます。
この「ゴジャ系語」は茨城県・千葉県独特(一ヶ所だけ、栃木県にもあり)で、他のエリアでは全く聞かれない独特の表現となっています。

茨城・栃木でもう一つ異彩を放っているのが、

『デレスケ』

という単語。

上方には全くない言葉なのと、西日本には分布ゼロなところから、上記の「ゴジャ(ッペ)」と共に、江戸発祥の言葉だと言われています。特に「デレスケ」は、江戸落語古典落語が最初の出典なので。

 

話の脱線:東京はいつからバカが使われてきたのか?

東京(江戸)は、昔から「バカ」が使われてきたと思われがちですが、江戸時代初期には「タワケ」「うつけ」が主でした。江戸幕府成立で尾張の武士言葉が流入してきた形跡がありますね。

 

しかし、17世紀後半に上方から「べらぼう(め)」(「べらんめえ」は「べらぼうめ」の口語形)が入り江戸で短期間で広がります。短期間で広まるということは、爆発的な流行があったと思っていいでしょう。
それに少し遅れて、18世紀あたりから「バカ」が入ってきたと推定されます。


この2つは、徐々に「タワケ」「うつけ」を江戸から駆逐し共存していました。

 

19世紀初頭の有名な書物で、「べらぼう(め)」と「馬鹿」の使用頻度を比較してみましょう。

 

東海道中膝栗毛(1802-1809)

べらぼう(め):19

馬鹿(者・野郎):4

ちくしょうめ:2

くそくらえ(くそったれ):8

たはけ(たわけ):2

 

=おまけ=

東海道中膝栗毛」に出てくる関西弁

アホウ:24(※決して「アホ」ではないので要注意)

あんだら:6

(※現在大阪で使われる「アホンダラ」ではないので要注意。「あんだら」と「あほんだら」は実はベースになった言葉が全く違い、「あんだら」は「あほんだら」の省略形ではありません)

 

浮世風呂(1809-1813)

べらぼう(め):5

馬鹿者:2

馬鹿:7

たはけ:3

 

 「べらぼう(め)」「バカ」共に譲らず、がっぷり四つのまま明治の文明開化へ。

しかし、明治時代になり「バカ」が急激に浸透しました。言語学者によると、明治初期の東京で「バカ」の大流行があったのではないかと推定しているそうです。

江戸時代の文献にはあれだけ出てきた「べらぼう(め)」は、明治の文献から急速に消えていき、最後はあの夏目漱石の『坊っちゃん』。それも2回しか出てきません。江戸っ子の坊っちゃんが2回しか放っていないということは、その時には急速に廃れていたものと推定できます。
「べらぼうめ、イナゴもバッタも同じもんだ」
坊っちゃんが威勢よく啖呵を切ったのは、「べらぼうめ」が文学界に放った最後の光だったのです。

 

 

それから「べらぼうめ」は文献に全く現れず、生まれてこのかた東京から出たことがない大正生まれの江戸っ子が、
「べらぼうなんて、言ったことも聞いたこともない」
と言う証言もあり、昭和初期には完全に消えたものと思われます。

また、聞いた話なので定かではないですが、映画の『男はつらいよ』の台本には「べらぼうめ」「べらんめえ」が出て来るそうです。しかし、寅さんがセリフで放つ時はすべて「馬鹿(野郎)」「ちくしょう」に変わっていました。これは江戸っ子だった渥美清が、江戸っ子じゃない人間が書いたシナリオに対し、それは違うよとアドリブで変えたと言われています。

 

「べらんめえ」を含む「べらぼう(め)」は、江戸っ子の代名詞のようなことばですが、江戸で使われていたのはわずか200年足らずな上に、元々は京・上方の流行り言葉だったのです。

 

 

新潟県は「バカ」が圧倒的なのですが、名古屋で使われる「タワケ」を使う地域もあり、ちょっとした不思議ゾーンです。
栃木県と群馬県には、「コケ(サク)」という独特の言葉もあります。

信越に入ると、長野県はやはりというかまさかというか、「バカ」と「タワケ」が混在しています。
北部は「バカ」、南木曽は「タワケ」文化圏のようです。
しかし一ヶ所だけ、北海道や東北の一部で使われる「タクラダ系」が使われている地方があります。
どこかはわかりませんが、陸の孤島のようにポツンと存在する「タクラダ」の謎、すごく興味ありです。
言語の陸の孤島なら、佐渡で話されている「アンゴウ」という表現。
これは岡山県や瀬戸内海沿岸、香川県の一部で使われている表現ですが、なんで佐渡島に?という謎が残ります。


中部地方

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名古屋を中心に「タワケ」が中心ですが、そうと断言することができないのが面白いところ。

前編で書いた、

 

「で、『タワケ』と『バカ』の境目は?」

 

という上岡局長からの宿題ですが、予算の都合でそれ以来凍結されていました。番組では「北野誠が全然調べないから」と片付けられてしまっていましたが、銭がないという大人の事情なのに、局長と顧問に叱りつけられ痛くもない腹を探られた北野が少しかわいそうでした。しかし、これが関西クオリティ。


が、視聴者から『アホバカ』はどないなっとんねん!という声が殺到したというのもあって調査が続行されたところ、面白い結果に。

 

静岡県浜松市までは「バカ」なのですが、今は浜松市になっている当時の舞阪町という隣の地域になると、「トロイ」となります。
それが愛知県東部に広がり、刈谷市あたりで「トロイ」と「ターケ(タワケ)」の併用となり、名古屋市で完全に「タワケ」

『タワケ』と『バカ』の境目」を調べるつもりが、伏兵中の伏兵「トロイ」がサンドイッチの具のように挟まることに。

 

 

東海のバカトロイタワケ分布


この「トロイ」、分布図で見てみるとちょうど旧国の「三河」と「遠江」の一部にあたります。地元の人以外何気に忘れがちですが、愛知県は「尾張」と「三河」に分かれていたのです。この「アホバカ」分布によって、過去の遺物になったと思われていた「尾張」「三河」が再び浮き出てきました。

 

「タワケ語圏」は岐阜県に入り、上に書いた関ヶ原で「アホ」にバトンタッチされます。

 

三重県は、個人的には関西じゃないのと思うのですが、上の画像が「東海地方」に入っていたのと、関西は書く項目が多いため、独断で東海に入れます。

三重県は関西側だと「アホ」、愛知県に近くなると「タワケ」語圏になります。

三重県で注目すべきは、志摩半島で使われている「アンゴウ」です。

 

三重県のアンゴウ分布

1775年(安永4年)に発行された、『物類称呼』という日本初の全国方言辞典があります。著者は俳諧師として全国を歩いているうちに全国の方言をコレクションし、一冊の本にまとめたのですが、その中に

「伊勢にて『あんがう』又『せいふ』と云」

という項目があります。『せいふ』は現存しませんが『あんがう』=「あんごう」は残っています。ただし、三重県全般で使われていた「あんごう」は、「アホ」によって志摩半島の先にまで追いやられてしまいます。
この「アンゴウ語圏」は、関東の欄で書いたように佐渡島でも使われています。

 

 

北陸地方(富山・石川・福井)

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北陸は「ダラ系語(ダラ・ダラズ等)を使います。富山では一部「タワケ語圏」がありますが、能登半島を含めたエリアでは「ダラ系」が圧倒的。
しかし、東北の欄で書いたように、能登半島西部に「ハンカクサイ系語」があるなど、孤立語が複数あります。

 

番組を見ていて非常に面白かったのは福井県

「プロローグ編」で視聴者から、

『ダラ』は富山だけでなく、石川県全域でも使われています。富山県と石川県は方言において共通するものがありますが、福井県とは全く共通点がありません。(以下略)」

という情報が来たと書きましたが、福井県はそれこそ市を跨ぎ、山を一つ越えると言い方が違う、というほどバラエティが豊富でした。
「アホ」「バカ」はもちろん、名古屋・岐阜ローカルのはずの「タワケ」や、一風変わった「アヤカリ」という表現や、「ノクテ(イ)」などの福井県にしか残っていない言葉もあります。福井県ネタだけでも一つの論文ができそうな、方言博物館のような状態です。

更に面白かったのは、お隣石川・富山県では圧倒的多数の「ダラ系」が、県境一つ跨ぐとゼロになること。
ナイトスクープ』の取材でも、県境に住んでいる福井県民すら使わないという(その人は「バカ」)。しかし、県境跨いでいちばん石川県側の家では「ダラ」。
言語好き・方言好きとして、何やらよくわからないけれど血が騒ぎました(笑)

 

関西地方

関西ではみんなお馴染み「アホ」がメインです。
「関西は全部アホに決まってるやろ~!」
出来レースの予感。

 

しかし、事実は小説より奇なり

 

滋賀・京都府南部・大阪・奈良・兵庫県東部はほぼ「アホ」一色なのですが、和歌山県は「アホ」はむしろ少数派。
「紀北」という北部(和歌山市あたり&紀の川沿い)は確かに「アホ」なのですが、「紀南」と呼ばれる南部では、

「ウトイ」

でほぼ埋め尽くされています。私いちおう関西人ですが、「ウトイ」なんて聞いたことありませぬ。「ウトイ」は福井県の山奥でも使う地方があります。

 

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さらに面白いのは、住所すら定かではない、「高野山のもっと山奥」と表現した方が良さそうな所(龍神温泉あたり?)から奈良県十津川村三重県熊野市周辺で使われる「アヤカリ系語」(関西では「アイカリ」)
福井県でも使われているということは上述しましたが、さらに遠く、対馬壱岐でも使われていることが判明。全く違う地域に同じ言葉が残っているのは何故?

 

和歌山県でもう一つ面白いことが、分布図からわかります。

和歌山市より南は確かに「ウトイ」王国なのですが、「アホ」も点在しています。その点在場所が、何気にJR紀勢本線と国道42号線沿いということ。田辺市・白浜までは見てて楽しいくらい、鉄道&道路沿いに「アホ」が並んでいます。そして「アホ」の周囲を「ウトイ」が囲んでいるという図に。

国道は知りませんが、和歌山から紀伊半島を縦断する紀勢本線が開通したのは案外新しく、白浜まで通ったのは昭和に入ってからです。新しい交通網が開通し、大阪や和歌山市からの人やモノの出入りが盛んになるとともに、おそらく「アホ」も一緒に入ってきたのだと思われます。

 

兵庫県は、日本海側の一部に「ホウケ系語」があるものの、ほとんどが「アホ語圏」です。
しかし、プロローグ編では視聴者からの情報として、

明石市から西は『ダボ』

を紹介しました。しかし、番組が独自に行った綿密な実地調査によると、東では尼崎市から『ダボ』がポツポツ出だし、姫路市より西~岡山県境では「アホ」と完全に混在しています。
この「ダボ」は兵庫県(西部?)独特の表現で、分布図によると大阪の泉州(南部)も「ダボ語圏」になっています。
私は泉州弁エリアの高校に通っていましたが、「ダボ」ではないものの「ダボサク」と言っていた地元民クラスメートがちらほらいたな・・・。

同じ大阪弁でも、
船場ことば:アホ(強調形は「アホンダラ」)
河内弁:ボケ(同「ボケナス」)
泉州弁:ダボ(同「ダボサク」?)
と全然違うのが、大阪人として非常に興味深い。

ちなみに私は、「アホ」「ボケ」の二刀流です。いちおう泉州出身ですけど「ダボ」は使わないです。


淡路島を見ても、分布図を見ると
北部の淡路市:ダボ系語
山奥の旧五色町(現洲本市五色):アホウ系語
南部の洲本・南あわじ市:アホ系語
と違うっぽい。

ある意味いちばんショックだったのは、我々関西人がふつうに使い、西日本全般くらいには使われているだろうと思われていた「アホ」が、実は関西ローカル。それも関西全域で使われているわけでもない、ということですね。
書いている本人が勉強になっています。


中国・山陰地方

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岡山県は、瀬戸内海沿いに「アホ語圏」「アホウ語圏」が点在するものの、ほとんどが「アンゴウ」となっています。
これは上にも書いた通り、遠く離れた三重県志摩半島)や佐渡島でも使われています。

ナイトスクープ』では実際に岡山・志摩・佐渡島のネイティブに発音してもらっていましたが、全員「アンゴウ」。アクセントまで全く同じでした。


山陰地方は、鳥取県島根県東部は、北陸と同じ「ダラズ」などの「ダラ語圏」が圧倒的多数です。
しかし、島根県でも西部や隠岐島は「バカ語圏」となり、同じ山陰でも明らかに分かれています。
『アホバカ分布図』は具体的な地名を書いていないですが、Google mapと比較してみると、島根県の「ダラ」「バカ」の境界は、浜田市あたりと思われます。

広島県はほぼ一面の「バカ」王国になります。一部関西風「アホ語圏」福井県独特の「ノクテ語圏」などもありますが、無視しても良い程度でしょう。
面白いのが山口県山口県も「バカ」が多数派ですが、関西と四国にしかない「ボケ」も比較的広範囲に分布。山奥を中心に「タワケ」も残っています。分布図を見るかぎり、これがほぼ3:3:3の割合に見えます。


四国地方

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福井県並みにややこしく入り組んでいるのが、四国です。
分布図を見るまでは、四国全体が関西弁風「アホ(ウ)語圏」かなと漠然と思っていたのですが、それは正解と言えば正解。
四国全土に「アホ(ウ)」が点在しているのですが、意外なことに愛媛県の海沿いが多い。瀬戸内海を挟んだ広島県は「バカ語圏」なのに。
香川県には岡山県の影響か「アンゴウ」も多く、「バカ」も高知県南部や愛媛県宇和島市あたりに多く分布しています。後述する九州の影響か?!

 

四国には、ここでしか見られなかった言葉が二つ存在します。

全国でも香川県オンリーの「ホッコ」と、徳島県吉野川沿いに点在する「ホレ」です。

その強調形はそれぞれ「クソボッコ」と「ドボレ」なのですが、周りに「アホ(ウ)」に囲まれつつも、語源不明の二つの孤立語が四国に残っているとは、かくも不思議です。それも「うどん県」と「阿波踊り県」というお隣どうしなのに、「アホバカ」になるとかくも違うものなのか。

もう一つの四国の不思議は、旧「三河」「遠江」にしか使われていない「トロイ」が、香川県を除く全土に散らばっていることです。

 

 


九州地方

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土地の広さの割には、実は「アホバカ分布」バラエティが少ないのが九州。
なぜならば、ほとんどの地域が「バカ語圏」だから。


その中でも独自の道を歩んでいるのが、幕末の雄藩の肥前と薩摩。今の佐賀県鹿児島県です。

 

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佐賀県は初出場の「ホウケ系語」分布が多く、佐賀県では「フーケモン」と言います。「フーケモン」を始めとした「ホウケ語圏」は、佐賀県を突き破って長崎県五島列島にまで及んでいます。長崎県も分布図なら十分「ホウケ語圏」なのですが、主要都市の長崎市佐世保市が「バカ」らしいなので、そんなイメージはほとんどないと思います。

これは「ぼんやりした人」、今風に言うと「天然が入った人」という意味の「惚け者」が訛ったことはほぼ確定です。

上の地図を見ればわかるとおり、「ホウケ語圏」は東北の山形県を中心に残っています。新潟県広島県の山奥にも残っているそうです。

 

鹿児島県もほとんどが「バカ」なのですが、その中でも南端の指宿周辺の方言はなんと東北・北海道南部で使われる「ホンジナシ語圏」です。

 

 

ホンジナシの範囲

鹿児島には「ホがない」という表現があります。

ホがなかことしな」

(バカなことするな…という意味でしょう)

という風に使うらしく、『ナイトスクープ』でのアンケートの回答は指宿市だけでしたが、のちの電話調査によると鹿児島市を含む県全体で通じる言葉だそうです。

薩摩では語尾が脱落した表現が多く、「ホがない」も「ホンジナシ」の「ホンジ(本地)」の語尾が脱落した形のようです。

 

この「ホンジナシ」には、「酔っ払って前後不覚になる」「記憶がなくなるほど酔っ払う」という意味もあります。地方によっては「酒を飲んでビックマウスになる」「酒乱」という意味もありますが、東北地方の「ホンジナシ」はほぼ共通して「へべれけに酔っ払う」という意味が存在しています。

対して鹿児島の「ホがない」はどうなのか。

信じられないかもしれませんが、全く同じ意味で存在します。

また、岩手・青森の「ホンジナシ」は、目上の人に言われたことをしなかったり、間違ったことをすると「ホンズナス!」と叱りつける言い方があるそうですが、「ホがない」にも同じ使い方があります。

ここまで一致すると、何かおそろしささえ感じます。それは何故でしょうか。

 

 最後に、北海道・東北で出てきた「タクラダ語圏」ですが、かつては熊本でも使われていました。

在野の方言研究者が熊本県のすべての学校に、『探偵ナイトスクープ』と同じアンケート方式で肥後の方言を調べていました。1931年(昭和6年)の話です。

すると、旧肥後国全域で「タクラ」という言葉が使われていました。

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現在は完全に「バカ」に駆逐されてしまった、幻の「タクラダ語圏」の熊本県ですが、これも遠く離れた場所に何故同じ言葉が残っているのか。

 

 


沖縄・西南諸島

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沖縄は独特の「フリムン系語(フラー、プリムヌ等)です。奄美大島は今は鹿児島県ですが、言語的には琉球のエリアに入り、同じく「フリムン語圏」に属します。

 

沖縄の言葉(琉球方言)は独特すぎて、日本語とは別の言語ではないかと思ってしまうことがしばしば。しかし、独特ではないのです。では何か。

沖縄は大昔の古語を今に残している「元祖日本語」、琉球言葉から見ると「ヤマトグチ」琉球方言で「本土の言葉≒標準語」)の方が「エセ日本語」と言っても、決して過言ではない。沖縄の人たちは琉球言葉にコンプレックスがあると聞きますが、コンプレックスどころか「俺の言葉が由緒正しき純正日本語だ!」と胸を張って誇りましょう。

 

言語学の世界では、

琉球ことばで、『上代日本語』(奈良時代以前の古い日本語)にルーツを辿れないことばはない」

と言われます。琉球方言は我々にとってはまるで外国語ですが、訛りを取ると実は古代日本語の生き残りだったというわけなのです。

その典型が、標準日本語の「は行」が、琉球方言では「パ行」となること。「花」は「な」となり、「帆」は「ー」となります。

なんだか響きがかわいいですね。

「プリムヌ!!」

って怒られても、なんだか微笑んでしまいそう。

 

奈良時代の『上代日本語』は、は行は「パピプペポ」と発音していました。琉球方言にはそれがまだ残っているのです。

それが平安時代になると「ふぁ行」、つまり英語のfと同じ発音になっていました。それが安土桃山時代まで続きます。

 

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戦国時代~安土桃山時代にかけてポルトガル人宣教師たちが発行した「キリシタン版」という書物の一つ、「平家物語」のローマ字版(「天草本」。1592年出版)です。

 

この上のローマ字を日本語にすると、

NIFONNO COTOBA TO Hiſtoria uo narai xiran to FOSSVRV FITO NO TAMENI XEVA NI YAVA RAGVETARV FEIQE NO MONOGATARI.

「日本の 言葉と Historia(イストリア:歴史)を 習い知らんと 欲する 人の 為に 世話に 和(やわ)らげたる 平家の 物語」

(※「歴史」を和語で書いていないことから、この時代は「歴史」という言葉が存在していなかったと思われます。

 となりますが、ここで気づいた人はえらい。

NIFONNO COTOBA TO Hiſtoria uo narai xiran to FOSSVRV FITO NO TAMENI XEVA NI YAVA RAGVETARV FEIQE NO MONOGATARI.

 そう、は行が全部「ふぁ行」になってますね。「平家物語」はふぇいけものがたり」になっています。これは当時の日本語の読み方をそのままローマ字にしているので、信長・秀吉・家康はガチでは行を「ふぁ」と読んでいました。

同時期に発行された地図も、平戸は「Firado(ふぃらど)」、肥前と肥後は「Figen(ふぃぜん)・Figo(ふぃご)」と記されています。

 

「日本」も、「にっぽん」「にほん」という言い方がありますが、どちらが古いということは、ここまでの流れを読めばすぐわかると思います。そう、「にっぽん」が古いのです。ちなみに、安土桃山時代には「じっぽん」という言い方もあったそうですが、今回は省略。

で、「にっぽん」が時代を下り、「パ行」が「F音」に変化し、「にふぉん」となります。上の天草本にも「NIFON」と書いてます。そして更に時代が下り、「ふぁ行」が「は行」になり、「にほん」となったというわけです。

しかし、ふつうなら「にほん」という発音しやすい言葉が流行すると、古い言葉である「にっぽん」は消え古文書の上にしか残らないことばの化石となっているはずです。しかし、何故か「にほん」と仲良く共存し現在に至っています。

 

ちなみに、「は行」が今の「はひふへほ」の発音になったのは、江戸時代初期のこと。

元禄時代の1695年に書かれた『蜆縮凉鼓集』(けんしゅくりょうこしゅう)という書物に、50音の発音表が載っており、「は行」は「変喉」という名のh音と書かれています。

また、平安時代鎌倉時代には明らかに別の発音だった「じ」「ぢ」「ず」「づ」が、全く同じ発音に統一され今のようになったこともこの書物からわかります。

ただし、筑紫(九州北部)は小さな女の子でも「ず」「づ」を使い分けていたと記しています。 

 

これが、沖縄でのみ使われる謎の言葉「フリムン」を解くヒントとなります。

その謎解きは、また次回以降に。

 

この話、落語で言えばやっと「まくら」が終わったところです。

ここからが本題に入るのですが、これ以上書くと非常に長たらしくなって読んでくれそうにありません(笑

来週くらいに第三弾、「古語は辺境に残る」(仮称)をお送りします。

 

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