読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

昭和考古学とブログエッセイの旅へ

昭和の遺物を訪ねて考察する、『昭和考古学』の世界へようこそ

広東と飲茶(ヤムチャ)

今週のお題「好きな街」

 

parupuntenobu.hatenablog.jp

 

前の記事で、好きな街は上海という話をしました。

しかし、1年間上海に住んだ後、留学先を南方の広東省広州に移しました。

 

その理由は至ってシンプル。

「広州の方が住みやすそう」

というものでした。

「ここが俺の水に合う」

と言い換えても良いですね。

亜熱帯気候で冬の寒さが厳しくなく、寒いのが苦手な非寒冷地仕様の俺にとってはこっちの方が良いかな、と判断したのもあります。

しかし、何より興味が湧いたのは、広東省に残る独特の習慣でした。

 

上海留学時、一度広東省に旅行に行ったことがありました。

その時にふつうのレストランに入った時のことです。ふつうにメニューを見てふつうに注文しようとした時、服務員のおねーちゃんから意外な事を聞かれました。

「お茶は何にしますか?」

へ?お茶?上海ではまず聞かれないことです。

如何せん聞かれたことがないので、少し戸惑っていると彼女はすかさずヘルプを。

「烏龍茶、プーアル茶、紅茶、ジャスミン茶がありますよ」

上海にもお茶はあるものの、「お茶!」って言ったらまず種類の選択肢はなし。緑茶らしきものがドン!と出てくるだけです。これで、同じ中国なのにカルチャーショックです。

その時はどのお茶を選んだのかは覚えていないですが、おそらく無難に烏龍茶を選んだと思います。

更に驚いたのは、頼んだお茶がきちんと急須に入って運ばれてきたということ。上海でふつうの食堂で食事をしたらわかりますが、上海では「お茶」はコップにお茶の葉を入れ、直接お湯を注ぎます。「ダイレクト茶」と言ったらいいでしょうか。対して広東省のお茶に対する対応は、日本と同じ。中国に来てから「ダイレクト」しか知らなかった俺は、はたまたカルチャーショック。

後で知ったのですが、広東省は食事の前にお茶を愉しむという習慣が古くから残っていて、

「食べ物もいいけど、お茶もね」

という広東人の心意気が表れています。

その関東人の「お茶を愉しむ」という習慣が文化に結晶したのが、「飲茶(ヤムチャ)」の習慣です。

f:id:casemaestro89:20160315100654j:plain

飲茶についてはまた詳しく書いていこうと思っていますが、これが広東の第三のカルチャーショックでした。

飲茶って日本人の間でもけっこう知名度が高い「中国語」ではありますが、たいていの人が誤解している「飲茶」を少し解説したいと思います。

 

■誤解その1:「飲茶は中国に行ったら食べられる」

飲茶は中国の広東省、または「広東文化圏」である香港・マカオでしか経験できません。他の地方、たとえば北京や上海、台湾などで食べたいと思ったら、中級以上の広東料理のレストランに行かないと無理です。その広東料理レストランも、必ず飲茶タイムがあるかどうかはわかりません。中にはない所もありますから。

 

■誤解その2:「『飲茶』という食べ物がある」

ミスドのミスター飲茶や中華街の飲茶というイメージからか、「飲茶という食べ物がある」と誤解している人がけっこういます。「飲茶」というのはそもそも、おつまみをついばみながらお茶を飲んでおしゃべりを楽しむ、という習慣のことなんです。「飲茶」って漢字を見たら、「お茶を飲む」。そのままでしょ?

日本人が言う「飲茶」というのは、お茶の足しに出てくるおつまみをベースに発展した「点心」のことで、「点心」は中国語で「ティエンシン」、広東語で「ディムサム」と言います。そして、「おつまみ」は中国語で「小吃」と書き、「点心」は広東語独特の言い回しです。これはアメリカに渡った広東系中国人によってアメリカにも伝わり、アメリカ英語でも「ディムサム」がそのまま"Dim Sum"として英語になっています。

 

■誤解その3:「『飲茶』って中国語でしょ?」

「飲茶」って上に書いた通り「お茶を飲む」ことですけど、実は「飲む」の「飲」って現代中国語では、古文に多少残ってるだけで日常会話では全く使われません。現代中国語で「飲む」は「喝」となります。

そして「ヤムチャ」という発音も、実は広東語なんです。広東語の発音をカナで正しく書くと「ヤムツァー」になるのですが、人によっては「ヤムチャー」と言うので、ここは細かく気にする必要はありません。だから広東省以外で「ヤムチャ」と言っても全く通じず、

日本人:「なんでヤムチャが通じないの?中国語でしょ?」

中国人(広東人以外):「????(意味わかんねー)」

と、非常にとんちんかんな会話になります。

ヤムチャに欠かせない「点心」も、広東語の発音が日本に伝わったものもあります。

f:id:casemaestro89:20160315103156j:plain

「シューマイ」は「焼売」と書きますが、これを中国語で読むと「シャオマイ」。これは「惜しい!」となるのですが、広東語で「シウマイ」となります。

 

f:id:casemaestro89:20160315103246j:plain

これはチャーシュー(叉焼)ですが、チャーシューも実は広東語です。そもそもチャーシューは広東料理で、他の地方にはない「ご当地もの」なんです。中国語では「チャーシャオ」です。日本と中国のチャーシューは、味がちょっと違ったりします。これについてはまた今度書いていきたいと思います。

 

広州は「中国の食い倒れ」と言われているくらいの食の街です。

「食在広州」

という言葉も昔から存在している、自他共に認める食い倒れです。あ、「食在王将」やないですよ・・・って関西人にしかわからんか。

俺が広州を気に入った最大の理由は、この食い倒れっぷりにあるかもしれないですね。

 

海外は、当たり前のことですが、食文化が日本とは全く違います。中国はまだ近い上に我々が普段から中華料理に馴染んでるのもあって、海外の中では食に対する抵抗が少ない方ですが、それでも違うところは違います。海外生活を楽しく過ごすキーは、食べ物が合うかどうかがかなり大きいと思います。海外旅行でも、食べ物が美味かった国は概ね評価が高いですし。食欲は人間の最大原始欲求の一つなので、そこはおそるべしです。

逆に言うと、どんなに気候が良くても、人がやさしくても、食べ物が合わなかったら生活は地獄。留学や仕事などで海外に住もうとしている人は、ここを考慮に入れないと後で痛い目に遭うかも!?

 

というわけで、上海は歴史という観点から「好きな街」ですが、広州は食い物的に「好きな街」です。今でも、

「広州で美味いもん食いに行きたいな。ヤムチャしたいな」

とふと思う時があるくらい、俺の肌と口に合ったのでしょう。

 

広告を非表示にする