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昭和考古学とブログエッセイの旅へ

昭和の遺物を訪ねて考察する、『昭和考古学』の世界へようこそ

【シリアの国内・国際政治】シリア内戦ABC 後編

前回の記事

わかりやすく解説!シリア内戦ABC 前編-宗教対立 - 昭和考古学とブログエッセイの旅へ

では、宗教の面からシリア内戦の事情を書いていきました。

しかし、原因はこれだけではありません。

お次はシリアの国内や国際政治、特に大国が絡んだ政治的要因を見ていきましょう。

 

 

シリアの政権は、

 

ハーフィズ・アル=アサドシリア前大統領

ハーフィズ・アル=アサド

(以下、「パパアサド」)

 

息子の

バッシャール・アル=アサドシリア現大統領

バッシャール・アル=アサド(以下「子アサド」)

によって権力の世襲が行われ、40年間シリアを支配してきました。
権力の世襲といっても北朝鮮ほど露骨ではありません。国民投票をした結果、大統領に信任されたという手続きは取っています。それが正当な手続きで行われたかどうかは別として。


シリアの国体は社会主義で、アラブの中の社会主義国となっています。
なので、アサド親子政権はずっと親ソ連を貫き、ロシアとも緊密な関係になっています。
また、イランとも仲がよいため、周りのアラブ諸国、特に実際に戦争をしたイラクや、
何かとイランを目の敵にするサウジアラビア等とは、仲はよろしくありません。
(※イラクとはフセイン政権崩壊後に関係を回復していて、今は良好です)


俺がシリアに行った頃はパパアサドが政権を握っていた頃ですが、その1年後にパパが亡くなり、子アサドが政権を引き継ぎました。

 

シリア国内の政治は、「バアス党」という政党の事実上一党独裁です。
アサド親子はバアス党の党首という存在で、バアス党が大統領を任命する権利を持っていました。
もちろん、他の政党もあるにはあるのですが、事実上バアス党の衛星政党となっていて、民主主義国家で言う『野党』が存在していない状態です。
これは「自称民主主義国家」ではよくあるパターンで、中国や北朝鮮も、実は共産党以外に政党は存在しているのです。

ちゃんと他の政党もあるんですよ、だから独裁国家じゃないですよ!というアピールです。ただし、「他の政党は共産党の指導に従う」(中国の場合)と書かれているので骨抜きにされ、野党たりえません。

 

バアス党の支持層は、イスラム教のアラウィー派がメインですが、スンナ派以外の少数派イスラム教徒やキリスト教徒も支持しています。つまり、スンナ派以外はみんな支持しているということです。


何故かというと、バアス党(=アサド政権)が「世俗主義」と採っているから。

 

世俗主義とはなんぞやというと、解釈はいくつかあるのですが、シリア情勢とイスラム教の事情を踏まえると、簡単に言えば政教分離のことです。

たとえば、

 

・お酒禁止のイスラム教でも、飲む飲まないは個人の自由。他人が飲んでいても他人の権利として尊重する
・女性は髪の毛を隠さないといけないけど、最終的な判断は個人や家族、社会に任せましょう


などといったもので、法に基いて政治と宗教は切り離すというもの。憲法で権利が定められているトルコやエジプトなどは法律によって権利が定められています。
シリアもいちおう政教分離です。いちおう大統領はムスリムイスラム教徒)でなければならないと定められているので、先進国の言う完全政教分離ではありません。しかし国教を定めなかったり、信教の自由を認めたりと異教徒やイスラム教の他の宗派にも配慮しています。そういう意味では、独裁国家にありがちな独善的な排斥は見えません。

 

それに対して、
「西洋や他の文化に汚されている!イスラムの原点に戻れ!」
世俗主義に眉をひそめている人たちもいます。
そんな彼らが集まったグループが、俗に「イスラム原理主義」と呼ばれるグループです。
大多数のイスラム原理主義のグループは合法的に活動しているのですが、中にはそれでは生ぬるいと、暴力を使ってでも実現させようとする過激なグループも出てきます。
それがイスラム過激派」で、アルカイダやIS(「イスラミックステート」「イスラム国」)などが典型です。

宗派に関係なく、イスラム教徒は「世俗主義派」と「原理主義派」に分かれていて、ガチガチの保守であるスンナ派でも世俗主義な考えの人がいるし、他の宗派でも原理主義の考えの人がいます。

ただ、解釈を間違えてはいけないのが、原理主義イコール悪ではないということ。イスラム教過激派のテロリストの影響で、原理主義者イコール悪のような流れになっていますが、それは間違い。

原理主義が悪なら、日本人が日本文化を見直そうという流れも、悪になってしまいますからね。

 

世俗主義の代表格の国家がトルコです。絶対不可能と言われていた、イスラム教の政教分離を世界初で達成したのですが、エルドアン大統領が原理主義に戻している傾向にあるようです。

去年、軍によるクーデター未遂がありましたが、あれは世俗主義の軍が原理主義になる流れに反対して起こしたと言われています。

 

どちらかと言うと、イスラム教がメジャーな国家は原理主義の流れになっており、世俗主義は分岐点に来ているかもしれません。

 

シリアの場合、バアス党の支持者の中には世俗主義スンナ派の支持者もいて、バアス党の支持者以外は政治に参加できずに、抑圧され続けていました。

更にアサド政権の世俗主義にも反対している原理主義の人たちもいて、「○○派=政府側 △△派=反政府側」と単純に区分けできないモザイク状態になっていることが、内戦の泥沼化に拍車をかけているといえます。

 

メディアではほとんど報じないのですが、すっかり「悪の独裁者」となっているアサド大統領ですか、2011年の「アラブの春」の後、子アサド大統領は民主化に配慮して政治改革を行っています。

  • 憲法に書かれたバアス党の特権を廃止
  • 大統領は2選まで

などいくつかの妥協を行ったのです。最初から弾圧一点張りではないのです。しかし、反体制派勢力は納得せずドンパチが始まった、という流れです。
政府も政府で、自分から大統領は2選までとしたのに、子アサド氏が実は3選目に入っていて、


反政府側「約束が違うじゃないか!」


大統領「今内戦で選挙できないから仕方ない。ってかお前らこそ約束破ってんじゃねーかよ!」


という対立が続いています。

 

また、シリア内戦が泥沼にハマっているのは、アメリカやロシア大国や周辺国の思惑もあります。

現在、政府と反政府を支持しているのは、以下の通りです。

政府側(アサド政権)支持
ロシア
イラン
カタール
レバノン
中国(直接何もしていないが、ロシア支持)
北朝鮮(シリアとは古くからの友好国な上に、主要な輸出先)
など

反政府側支持
米・英・仏
EU
トルコ
サウジアラビア
エジプト
クウェート
バーレーン
など

中立or態度が曖昧
イスラエル(シリアとは天敵なので、反政府寄りか)
日本(駐東京のシリア大使を追放しているので、反政府側寄り)

ヨルダン(元々親米なので反政府寄りか。IS掃討作戦には米軍と共同)
ドイツ(「一体どっちやねん!」とツッコミ入れたいような声明を出しています)

 

また反政府組織は一枚岩ではなく、いろんな組織があります。
そのなかの一部に、イスラム過激派のアルカイダが援助している組織もあって、反政府側もかなりモザイク状態だったりします。

 

シリア情勢がいちばんややこしいのは、大国の代理戦争と化していること。
ベトナム戦争の二の舞いを、シリアでやっているようなものです。

特にロシアが躍起になってシリアに肩入れしているのには、理由があります。

中東の「縄張り」はほとんどアメリカの息がかかっており、シリアはロシアが影響力を行使できる、中東唯一の国になっています。

シリアに行った時のことを思い出すと、シリア第二の都市、「シリアの大阪」の経済都市のアレッポの市場では、確かにロシア語の表示がけっこうありました。政治だけではなく、ロシアにとってはビジネス市場でもあるようです。

まあ、明らかに中国製とおぼしき「SONYの冷蔵庫」とか「Panasonicフィルムカメラ」などもありましたけどね。Natonalブランドのフィルムカメラはあったらしいけど、Panasonicブランドのフィルムカメラ(デジカメじゃないよ)なんてあったっけ??(笑

 

中東の親ロシアといえば、イラクもかつては親ソ連でした。フセイン政権も、旧ソ連と共同で石油開発を行ったりしてソ連・ロシアに近づいていたせいで、アメリカに言いがかりをつけられて潰されたとも言えます。

ロシアにとっては、シリアのアサド政権が中東の最後の牙城です。これを手放すわけにはいきません。だからこそプーチンはシリア情勢に対しては一歩も退かないのです。

 

逆に、アメリカに目をつけられたのは、親→子へ権力が世襲されたのをきっかけに、アメリカから「独裁国家」とマークされたのがきっかけでした。

更に2003年のイラク戦争の時、イラクからの難民をシリアで保護したのですが、その中に怪しいテロリストも含まれていました。アメリカは引き渡しを要求したのですがシリアは拒否、そこから関係がギクシャクしていきました。

それからというものの、北朝鮮と共同で核開発している、アラブのイスラム過激派と裏でつながっているなどのインネンをつけられ、経済制裁などの圧力を加えられてきました。

 

今でも、通産省から「輸出禁止貨物リスト」なるものが公表されています。貿易に携わる人にとっては絶対に頭に入れておかないといけないリストなのですが、該当貨物の輸出禁止国にシリアが入っています。

シリアにモノを輸出全面禁止!というほどキツいものではないのですが、正直シリアとは国際貿易で一切関わるな、という国からの間接的なお知らせと言っていいかなと。

また、日本→シリアの直接取引だけではなく、日本→第三国(香港やタイとか)→シリアも禁止です。

これを破ると通産省から、外為法違反でキツ~~いお灸を据えられます。資本金5000万円クラスの会社なら外為法爆弾一発で破産すると思います。

このルールは素人には非常にややこしい上に、貿易知識とノウハウがないメーカーや中小企業がこの地雷を踏んでしまう可能性があります。海外から直接機械類や精密機器の購入希望の連絡があったら、絶対に気をつけましょう。

 

シリア内戦は、ヨーロッパまで飛び火しています。

内戦から逃げてきたシリア難民が、トルコやギリシャを経由してヨーロッパに流れてきているニュースは去年かなり報道されましたが、あまりの数の多さにヨーロッパが悲鳴を上げています。

最も多く難民を受け入れているドイツでは、難民を受け入れるために公営住宅に住むドイツ人が追い出されたり、どさくさに紛れて過激派が入ってきたり、難民による集団レイプ事件も起こっています。更にマスコミが全く報道しないために住民の不満がかなりたまっているようです。マスコミの「報道しない自由」は、海外も同じだったりします(笑

他のヨーロッパの国にも同様の問題が起き、その反発として脱EU、移民追放の政治勢力に支持が集まっています。

彼らを「極右」と切り捨てるのはかんたんです。しかし、彼らの声によ~く耳を傾けてみると、一理はあると納得します。他国の事だから他人事なだけで、もし日本で同じ状況が発生したらと置き換えてみると、彼らの意見は決して「極右」なんて言葉で片付けられません。

 

シリア内戦の延長線上には、アメリカとロシアのメンツの張り合い、縄張り争いも絡んでいます。

更にシリア嫌いのサウジアラビア、これを機会にシリアへ唾つけとこうというトルコの思惑もあります。同じアラブでも隣国レバノンなどは「これ以上難民流入は勘弁してよ!」と政府側に加担したり、まるで「第五次中東戦争」か「第三次世界大戦の予行演習」のような様相になっています。

 日本にとっては遠くの国の内戦ですが、この国の内戦は「もうやめようよ」では終わらない、一筋縄ではいかない複雑な環境が絡んでいるのです。

 

以上、シリア情勢の話でした。

 

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