昭和考古学とブログエッセイの旅へ

昭和の遺物を訪ねて考察する、『昭和考古学』の世界へようこそ

蒋介石像の破壊-ショービニスムの危険性

前回、2回に渡って台湾の八田與一氏の像が破壊された事件を記事にしました。

 

parupuntenobu.hatenablog.jp

 

parupuntenobu.hatenablog.jp

 

まだ首は見つかっておらず、現在警察がダムの底を捜索しているのですが、報道は沈静化してやれやれ・・・と思っていた矢先、今度は台北にある蒋介石の像が「斬首」されるという事件が発生しました。

せっかく今週から、ゆっくり「昭和考古学」を書こうと思ってたらこれか。

 

www.sankei.com

 

この像切断事件は、「台湾建國工程隊」という、台湾独立を主張する組織が犯行声明を出しています。

日本のマスコミは、産経以外は「八田與一像破壊への報復『か』」と書いていますが、「か」ではなく彼らは「報復です」と犯行声明を出しています。中国語に自信がないのか、ソースに自信がないのか、新聞が「か」とぼかす根拠を教えて欲しいわ(笑

 

台湾建国工程隊による蒋介石像切断

 

彼らの犯行声明によると、

「お前ら(中国人)は台湾人が敬愛する八田與一氏の首を斬った。言語道断である。よって我々は『日本軍士官石岡一郎』の首を斬る。この首は八田氏の鎮魂のために捧げる」

(現地新聞に掲載されていた犯行声明を意訳しました)

 と蒋介石の像を切断した理由を、「目には目を、歯には歯を」だと説明しています。

ここに書かれている『日本軍士官 石岡一郎』とは誰か。これも日本語で検索しても出てきません。

これは台湾では蒋介石は日本留学時代、『石岡一郎』という日本名を名乗った」という風説なのですが、学術的には確たる証拠はありません。台湾版都市伝説のようなものです。

 

犯行を行った「台湾建国工程隊」とは何者なのか。

現地サイトや香港のサイトまで調べてはみたのですが、詳細は出てこずで、如何なる組織なのかはわかりません。少なくても日本語では全く出てきません。

しかし、少なくとも四つのことがわかりました。

  • 「台湾建国」を旗印にした独立派
  • 蒋介石・国民党を「二二八事件で台湾人を虐殺した殺人鬼」とみなしている
  • 台湾にあるすべての蒋介石像の首を切り落とすと宣言している
  • 八田氏の像の首を切断した「中華統一促進党」や「中華愛國同心會」とは水と油、思想的に真逆

 

過去の現地のニュースを掘り出してみると、「台湾建国工程隊」が起こした蒋介石

損壊事件は今回だけではありませんでした。

少なくとも、今年3月に二件の「斬首」事件を起こしています。

 

極端に揺れる台湾の政治思想

 八田與一像を損壊した李承龍などの連中もたいがいですが、「台湾建国工程隊」とやらのやり方も極端です。

 

parupuntenobu.hatenablog.jp

 

ここの記事で、政党による台湾人の「中国統一派」の解説と、政党別「統一派」と「独立派」の相関図を作成しましたが、今度は思想的な区分をしてみたいと思います。今度も多少は私の主観が入っています(笑

 

①「中華人民共和国」による統一派

八田與一像切断事件の犯人が、この一派。「中国のスパイ出張所」とWikipediaに書かれているほどの「親中」派

 

②「中華民国」による統一派

:国民党などが主張している

 

③現状維持派

:いわゆる無党派層や政治的いざこざを好まない層がここ

 

④穏健な台湾独立派

李登輝氏や今の民進党はここ。「中華民国」を「台湾化」し骨抜きにした上で、最終的には台湾に住む人達で、お隣情勢を見極めながら(国民投票などで)合法的に台湾独立を達成させる

 

⑤急進的な台湾独立派

:かつての民進党がここ。民進党が穏健派になることに物足りず、出ていった人たちがここ。当然「台湾建国工程隊」とやらもここ

 

 

人数としては、②③④でほとんどを占めていますが、これには現代台湾情勢に無知な人がよくやらかす、「本島人」「外省人」の区別はありません。李登輝氏でさえ、「『本島人』『外省人』の区別はなくなった」と言っています。何度でも言いますが、既にこの区分けは無効かつ時代遅れです。

③④は、中国統一にしろ台湾独立にしろ、過激・急進的な行動は好かず非合法な行為は言語道断としています。

 

ショービニスム vs ショービニスムの戦い

問題はです。

の支持層が、既存のやり方では生ぬるい!遅い!と極端な思想エリアである①とに流れる傾向にあり、その言動が台湾の政治を不安定化する要因にもなっています。

特に不安なのが、は「ショービニスム化」している感があること。

ショービニスム(仏語:Chauvinisme)

狂信的な愛国主義。極端な排外主義 (『大辞林』より)

 中華民族主義というMade in Chinaの愛国主義であり、台湾ナショナリズムという土着の愛国主義。どちらも1989年の天安門事件の頃に生まれたものです。

韓国の場合は、これに「エスノセントリズム(ethnocentrism)」がもれなく付いているのですが、韓国のことはここでは語りません。ひとまず置いておきましょう。

 

ショービニスムは、上にも書いているとおり極端な排外主義を生み出します。①と⑤が水と油である以上、いつか必ず暴力による衝突が起こります。

今はまだ蒋介石像の破壊くらいで済んでいますが、いつか本物の人間を破壊するまでにエスカレートして行くことは必至です。特には実際に傷害・放火事件などを起こしているし、中国のバックアップがあるので何をしでかしてくるかわからない怖さがあります。

そこを狙った中国がを扇動し襲撃事件を起こしたりして、台湾国内を不安定化させることも可能です。するとが仕返しとばかりにまた報復をする。漁夫の利戦術ですがそういう策略、中国様は朝飯前の十八番です。

最悪のパターンとして、台湾が不安定化すれば中国は「国内の秩序を回復させる」という名目で軍を進め、台湾に侵攻してくる危険性もあります。中国がおいしいとこを持っていくだけ。

の急進的独立派は、それが見えていないのではないか。先が読めていないのではないか。ある意味中国の片棒を担いでいるようなものだと気づかない。

 

の中国統一派も、中国に統一されたら、香港の一国二制度のようになったらどうなるかが全く見えてないのですが、の急進的独立派も自分らの行動が中国の策略にハマっていることが見えていない。それがショービニスムの怖さなのです。

 

現地の掲示板を見てみると、幸いほとんどの台湾人は

「どっちもどっち」

「気持ちはわからんでもないが、公共物を壊していいのとは話が別」

「なんだか悪い方向へと進んで行ってる」

などと冷静な見方をしているのですが、「目には目を、歯には歯を」をきっかけに国内が不安定にならないように祈るばかりです。我々は、こればかりは祈るしかないです。