昭和考古学とブログエッセイの旅

昭和の遺物を訪ねて考察する、『昭和考古学』の世界へようこそ

「運ちゃん」から見える、台湾に残る日本語

Twitterで偶然見つけた記事です。

www.sankei.com

 

なんのこっちゃ!?とお思いでしょうが、百聞は一見にしかず、こちらをどうぞ。

 

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このタクシーの運ちゃんは、どこを見て運転しているのでしょうか。

ここまで全面がコチャゴチャしていると、何を見ていいのかわからなくなりそうですね。でも、これで事故っていないからまあいいか。

これを見て、

 

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ガンダムのコックピットを思い出してしまったのは、私だけでしょうか。

 

 

台湾に残る日本語

ところで、台湾ではタクシーの運ちゃんを「うんちゃん」と言います。

日本に統治されていた歴史がある台湾には、知っている人は知っているとおり今でもいろんなところに「日本」が残っています。

大多数の人は、建物や食べ物など見えるものばかり注目しますが、今に残る「日本」はそれだけではありません。台湾で使われることばにも、見えない「日本」が隠されていることが多いのです。

台湾語という台湾の方言に残った日本語は、死後も含めるとかなりあります。「ビール」や「トラック」、「バス」「オートバイ」などカタカナ語もあれば、「欧巴桑(おばさん)」「多桑(父さん)」など家族の呼び方もあります。「欧吉桑(おじさん)」は、台湾のテレビででしたが、元西武ライオンズ郭泰源氏が使っていて、郭泰源台湾語しゃべってるわ!と驚いたことがあります。

変わった残り方をしたものに、「烏龍麺」があります。

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日本の「うどん」のことなのですが、なんで「烏龍」やねん、ウーロン茶の親戚か?と最初は思ったものです。ちなみに、大陸中国や香港では「烏冬麺(ウードンミェン)」と、「うどん」を音訳しています。

これは、あくまで私の仮説なのですが、関西人は「うどん」を「うろん」という傾向があります。というかある「そうです」。当然、私のような関西人はふつうに「うどん」と言っているのですが、関東人には「うろん」と聞こえるそうなのです。中国留学時、栃木県出身のクラスメートに

「へぇ、関西人って『うどん』を『うろん』って言うんだね」

と驚かれたことがあります。私だけではなく、関西人全員の発音が「うろん」なんだそうです。

といっても、指摘されたのはこれを含めて通算2回だけなのですが、もしかしてもしかして、台湾に残る「烏龍麺」はこの「うろん」が音だけ残ってしまったのではないかと。まあ、勝手な推論です。

 

「うんちゃん」日台での使い方の違い

当然、時代とともに使われなくなり死語となった日本語も多いのですが、「うんちゃん」はその中でも生き残りの一つ。漢字にすると「運将」と書くそうですが、「うんちゃん」の当て字で特に意味はありません。そして、ガイジン風に気取って、

「ウンチャ~~ン」

なんて言う必要はなく、日本語のまま「うんちゃん」で通じます。

日本で今でも使う「うんちゃん」と台湾の「うんちゃん」には、終戦を隔てて使う地域が離れたか、使い方に大きな違いがあります。

日本語の「うんちゃん」は、タクシーの他にトラックなどにも使えるのですが、台湾ではあくまでタクシーの運ちゃんのみに使われます。

二つ目の違いは、台湾では運ちゃんへの呼びかけに使えること。日本ではタクシードライバーに、

「なあ運ちゃんよー」

なんて呼びかけると、ヘタすればトラブルの種となってしまいますが、台湾ではふつうに呼びかけに使います

最後の違いは、これがいちばん大きな違いかもしれません。

日本の「運ちゃん」には、どこか見下しているような、少し貶めたようなニュアンスがありますが、台湾は逆に尊称なんだそうです。

 

死語からの復活

さらに掘り進めていくと、「運ちゃん」の漢字、「運将」の「将」は「ちゃん」の音訳。実は台湾には「~さん」「~ちゃん」も残っておりました。

「~さん」は「桑」と書き、北京語で「サン」と発音します。これは「欧巴桑(おばさん)」などの単語が根強く残ったので、今でもけっこう使われています。対して「運将」の「将」は、「うんちゃん」以外使われることはほとんどなく、そのままことばのゴミの山に埋もれるはずでした。

しかし、意外なところから復活、いや大復活します。

それがアニメと、それに伴う日本ブーム。

ようつべなどで日本のアニメを見ると、よく中国語の字幕が表示されていることがあります。私もよく活きた中国語の参考にいろいろ採集しつつ見ています。べ、べ、別にあたしはアニメが見たいわけじゃないんだからね!

ツンデレはさておき、その中国語訳が中国人が作ったものか、それとも台湾人が作ったものか、だいたいわかる目安があります。

簡体字繁体字の違いもあるのですが、それなら繁体字を使う香港人と台湾人はどう区別するのか、という違いも出てきます。しかし、アニメでよく使われる「~さん」「~ちゃん」の翻訳の仕方に、それぞれの癖が出ているんです。

中国人や香港人は、「~さん」「~ちゃん」「~君」の区別があまり出来ません。広東省など南方では、年下(目下)に使う「阿~」という「~ちゃん」表現がありますが、日本語のそれとはちょっとニュアンスが違うんですよね。なので、そこらへんの細かいニュアンスの翻訳に四苦八苦していることが、字幕を見てわかります。私も逆に日本語を中国語に訳す際、こういう細かいニュアンス表現に苦労することがありますし。

しかし、日本の置き土産でこの区別がDNAに残っているらしい台湾人は、字幕でも見事に使い分けています。

「~さん」:桑

「~ちゃん」:将、または醤(アニメでは「醤」の方が多いかな!?)

(※どちらも「ちゃん」の音訳)

「~君」:君 

中国人が一苦労するこの違いは、台湾人にとっては「何の事はない」と。

特に、「~君」と「~将(醤)」は死を待つのみの死語予備軍、いやいったんはお蔵入りの死語だったのに、アニメで大復活を遂げてしまった「台湾語」でもあるのです。

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台湾のセブンイレブンのマスコット、「OPENちゃん」は、中国語で書くと

「OPEN小

英語ではOPEN-CHAN。やはり「ちゃん」なのです。

 

「見える」台湾の日本もわかりやすいのですが、視点を変えて「見えない」部分での台湾の日本を見つけると、また台湾が面白くなるかもしれませんよ。