昭和考古学とブログエッセイの旅

昭和の遺物を訪ねて考察する、『昭和考古学』の世界へようこそ

台風21号における関西鉄道会社の対応が、日本を変えるか

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9月4日、非常に強力な台風21号が関西を直撃し、各地に大きな傷跡を残しました。

この21号は渦巻きの東側の勢いが強く、直撃しなかったもののその東側にあたった大阪市府一帯は、とんでもないことになっていました。

電柱が根本から折れ、駐車場の軽自動車が紙のように吹き飛び、空港が水没する。

「これはただの台風ではないぞ!」

我々がそう悟った時にはすでに遅し。

 

「非常に強い」や「猛烈な」など、使い古された表現ばかり連呼する天気予報も、そろそろ表現を改めた方が良いのかも。

台風のすごさを表現するために、もっとエモーショナルに表現しないといけません。

「今回の台風は、もうめっっちゃ、めーーーーーーっちゃ強い台風なんです!トラックなんて指先一つでダウン!ケンシロウも驚きの強さ!」

「ゴジラとメカゴジラが二匹同時に上陸したような被害が予想されます!」

このくらい言っていただくと、見ている方もタダゴトではないと悟るはず。

 

ところで、台風21号の強力さにいのいちばんに反応したのが、JR西日本でした。台風上陸予定前々日の2日に、

「4日は運休します!!」

と宣言。

台風到達2日前に決断したのは前代未聞。ちょっと早すぎではないかとさえ思ったのですが、我に続けとJRの旗振りを合図に、私鉄各社も早々に運休を表明。まことに対応が素早かった。

こうなると、いつもなら

「お客様のために」

と偽善者ぶって出勤を強要させるサービス業も、鉄道会社の先手に臨時休業を決断。それが波紋のように広がりました。

 

何故鉄道会社(特にJR西)の決断が早かったのか。

一つ目は、やはり21号がただの台風ではないと察したこと。

すでに忘れられていますが、関西だけでも台風による強風で列車が脱線した事例があります。

 

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(大軌(元近鉄奈良線)の脱線事故)

 

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(滋賀県瀬田川橋梁の脱線転覆事故)

 

昭和9年(1934)、関西を直撃した(第一)室戸台風で脱線転覆した列車です。室戸台風は大阪府下だけでも2000人以上の死者が発生させた、現在でも大阪で語り継がれている伝説の超大型台風です。
一枚目の滋賀県瀬田大橋での脱線事故は死者も数名出ましたが、偶然橋桁に引っかかったから最小限の被害で済んだだけ。風向きが逆であれば濁流の川へダイビングでした。
なんだ84年前かよと言うべからず。車両は逆に現代の方が「軽量化」、言い方を変えれば「スカスカ」になっているのをお忘れなく。
鉄道会社は、「鉄道と台風の戦い」という歴史をきちんと覚えていたのでしょう。性善説ですがにそう解釈し賞賛したい。

 

もう一つは、ある種の勧告だったと推測しています。

日本人は、良くも悪くもマジメです。労働は天罰であるという、日本人とは真逆の価値観を持つ欧米人からバカジャネーノと冷たい目で見られ、カローシ(過労死)が英語になる不名誉な勲章をGETしてしまいました。

そんな愚直さからか、日本史上十指に入る強さの台風が来ても、強迫観念に駆られたように出勤しようと模索し、頭を抱える人がいます。ライフラインに従事する人ならさておき、ふつうの事務員が頭抱えなくてもいいだろうと。

鉄道会社は、それに先手を打ち、

「今回の台風を侮るな。自宅で待機するか避難しなさい」

と暗に促していたのではないかと。

剣道には、「先」「先々の先」という言葉があります。詳しい説明は省きますが、JR西が「先々の先」を打ち、それに何かを悟った私鉄各社が「先」を打った。本音はどうか知りませんが、私は好意的に解釈しています。

 

雨ニモマケズ、風ニモマケズ、残業ニモパワハラニモマケズ、会社ノタメニ身ヲササゲ、(中略)サウイウモノニ私ハナリタイ。ソウスレバ老後ハ安泰ダカラ・・・

一心不乱に職務に励む愚直な兵隊タイプは、昭和の高度経済成長時代まではよかったかもしれません。1970年代に「モーレツ社員」という言葉が流行ったそうですが、まさしく戦後の二等兵。

経営学的に見ると、この兵隊はいくらでも補充が利きます。赤紙の代わりに採用通知が来る徴兵制度として。

しかし、21世紀は違います。ビジネススタイルが変わり、兵隊より将校が必要になったのです。将校とは何か。状況を自分の頭で考え、判断し、行動に責任が持てる人物のこと。「一人ひとりが経営者」という人もいますが、それに近いです。

帝国陸軍の変態ならぬ変才石原莞爾は、上官の東条英機を「東條上等兵殿」と呼び、東條のオツムの「上等兵」ぶりをコケにしまくっていましたが、上等兵の頭で連合艦隊司令長官やっているような人、周囲を見渡せば2~3人いるのではないでしょうか。

 

JR西日本を筆頭とする各鉄道会社の対応は、人の命は安いという戦前から変わらぬ価値観、利益>>>>人命という売上至上主義の風潮、そして仕事のためならお前死んでいいのよ的文化に一石を投じる良い英断となりました。 

それに対し、

「電車止まったら仕事に行けないじゃないか!鉄道会社何やってんの!」

と怒り、部下に出勤を強要するような人は、すでに時代が変わったことに気づいていない。

時は昭和16年、対米戦争はもはや不可避の空気が流れていた頃、そんな空気に真っ向から逆らった海軍中将井上成美は言いました。

「明治の頭で昭和の戦争をする気か!」

私も井上提督に敬意を払い、一言申し上げたい。

「昭和の頭で21世紀の会社を経営する気か!」

近頃の若者は・・・ではなく、時代が変わったのです。環境が変わったのです。

21世紀に人の価値なんて『一銭五厘』の考え方をしている経営者は、
「人なんて腐るほどいる。いつでもいくらでも補充できる」
と考えます。「一銭五厘」とは戦前のはがき一枚の値段ですが、人の命がはがきより安かった時代の表現です。

現在、Twitterのドミノ・ピザのリプ欄が荒れに荒れていますが、原因はこれ。

www.youtube.com

人の価値を「一銭五厘」としか考えていないと、こんな非常事態時に配達をさせるのです。頼む方も頼む方ですけどね。

お客様の注文がある限り働かなければならない?畳食って死ねばいいのに。

 
「人材」が「人財」と呼ばれて久しい少子化・人口減の時代に、頭の中身はまだ「一銭五厘」。己は「明治の頭で戦争する気か」と、自問自答する価値があります。

 

ただし、鉄道会社が身体を・・・いや電車を張って問題提起をし、敷いてくれた前例というレールを活かすも殺すも、今後の我々次第です。平成最後の夏にやってきた大型台風は、新しい元号の時代に向け、より良い働き方を真剣に考える機会を与えた運び屋だったのかもしれません。

そして、本当の意味で昭和と決別する・・・それがまだ見ぬ新しい元号の時代だと私は思いたい。

 

==下の記事もあります。興味があればご覧下さい==

parupuntenobu.hatenablog.jp

 

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