昭和考古学とブログエッセイの旅

昭和の遺物を訪ねて考察する、『昭和考古学』の世界へようこそ

電車の車内アナウンスから見える"must"

たぶん、私が言及するブログとしてはダントツナンバー1のまけもけさんの記事より。

 

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英語

ここ数年の外国人観光客の激増の効果か、至る所で外国語表記やアナウンスが目や耳に入ってくるようになりました。個人的には、「国際的引きこもり」の傾向がある日本人をソトに目を向けさせる良いきっかけの一つではないかと思いますが、私の専門である中国語の、

「この表現、おかしいでw」

というアラ探しという街中散歩の楽しみも増え、毎日が充実するようになった性格の悪い私。

ただし、業務上では英語を使うことがほとんどです。アメリカ人やフランス人に中国語でメール書くわけにはいきませんしね(笑)

 

 

先々週に大阪に行った時のこと。

大阪から滋賀県に帰るには、素直にJR東海道線を使って帰るのが王道です。Yahoo!の路線案内にお伺いを立てても、そうせいとありがたいご指示を頂戴します。

新快速に乗れば、滋賀県なんて一眠りしていたらあっという間です。ただし、油断すると「湖西線経由」なんてのがあり、大津にいつ着くのかなと思っていたら近江塩津だった時の絶望感は、体験者にしかわかりません。なお、近江塩津も滋賀県です。

 

同じ大阪から滋賀県へ帰るにしても、「人と同じ」なんて面白くないが信条の私。Yahoo!路線案内様に逆らって天の邪鬼に、

上本町→大和西大寺→京都(→ここからはさすがにJR)

という、ふつうの人なら思いついても実行しない(?)変則ルートで帰ることにしました。

 

近鉄奈良行き快速急行

大和西大寺までの快速急行は、疲れのせいか鶴橋~西大寺間完全爆睡。面白いほど何も覚えていません。西大寺→京都間も、「ふつう」に帰るのは面白くないと特急で着席完全保証。ワンコインと十円で出来るささやかな贅沢です。

 

近鉄特急京都行

特急は京都駅まで1駅しか止まらないため、先発の電車をごぼう抜きしていきます。一部並走するJR学研都市線の電車もついでに抜いていきます。見ろ、JR快速がゴミのようだ…とは誰も言ってないですが、そっか天王寺→京橋→木津→京都というルートもいいな、次それにしよと、リクライニングシートをフル倒し、ウトウトとしながら次の大阪行きを頭に浮かべていました。

 

近鉄特急といえども外国語の需要からは逃れられません。車内アナウンスは、自動放送で英語・中国語・韓国語の順に流れていきます。

終着駅の京都に到着する時もそうでした。はぁ~もう京都かいな…あと30分くらい遅れてもいいのよ…なんて眠い目をこすりながら、車内に流れるルーチンアナウンスを聞いていました。日本語で、

「この電車はこの駅までです。お客様は全員お降り下さい」

みたいなアナウンスが流れた後の英語アナウンスに、私の全神経が目覚めることに。

All passengers must leave this train at Kyoto.

 (直訳:「すべてのお客様は京都でこの電車から離れなければならない」)

thisの部分はtheだったかもしれませんが、おっと近鉄はこなれた英語使いよるな~!と感心しました。感激のあまり、次の中国語アナウンスが全く耳に入っていません。

 

アナウンスの日本語が合っているかという細かいところはさておき、

「お客様は全員お降り下さい」

をどう英語に訳すでしょうか。ふつうなら"Please"を使うと思います。JRや他の鉄道会社も、確か"Please"を使った表現だったはず。"Please"も英語的には丁寧でも何でもないのですが、それはまたおいおいと。

ほとんどの鉄道会社が"Please"な中、近鉄は同じ表フレーズを"must"で表現しています。

 

 

助動詞"must"は中学校で習う初級の英語です。「~しなければならない」という意味で覚えている人が多いでしょう。

この"must"、本来は「強い義務・強制感」があり、それが転じて「命令」を表現することもできます。

"must"を使った命令のニュアンスには、「上から目線」という重要な隠し味があります。ビジネスなら、上司が部下に

「こうせい!わかったな!」

と業務命令を指示する時、または明らかな上から目線お説教に"must"を使うことが多いです。

業務で英語への翻訳をすることがあるのですが、たとえば

「~を切にお願いする次第である」

という日本語があったとしましょう。

これが日本語の難しいところで、誰がどんな意図で「切に願う」なのか、忖度しながら翻訳する必要があるのです。さらに、

「切に願う」

「次第」

って英語にあるのか!?と、初心者は確実にテンパります。

日常会話レベルでは"hope"、ちょっと英語がわかる人なら"would like you to do"なんかも使いますが、社長がグループ会社一同に対し発信し、前後の文脈の内容で実質的な「業務指示」とみなせる場合、"must"を使うことができます。

 

「この日本語、どういう意図で書いてますのん?」

本社の社長に内線で聞くわけにはいかないので、発信者の意図は何かを推察するのも翻訳家(者)の仕事です。外国語屋のスキルと言えば外国語能力ばかりクローズアップされますが、そんなのあって当然です。

学校の国語のテストの

「作者の気持ちを書け」

という問題に、

「作者に聞けば?」

と書いた人がいると思います。私もその一人です。先生によく怒られました。しかし、リアル和文英訳ではこんな「国語テスト」が毎回です。そんなもの誰も教えてくれません。職人センスと実戦経験がものをいう世界です。

 

"must"は、自分に対して使うのであれば、何の問題もありません

"I must study English"(英語勉強しなきゃな…)

こんな独り言なら"must"でOK。しかし、同僚に対して

"You must study English"

なんて言おうものなら、おそらく

「なんやねんお前その上から目線は!!(怒」

とケンカになりかねません。こういう時はごく弱~いニュアンスである"should"の使用がベターですが、それでも神経質な人は不快に感じ、舌打ちくらいはされるそうな。 

 

とこのブログを書いている最中に、こんなツイートを見つけました。

 これが非常に明快で、かつ英語巧者のツイートなので信頼性も高い。

 

近鉄の"must"を使った表現、何故熟れているのか。ここからは外国語のニュアンス論ではなく、価値観の話になります。

日本人は、感覚的に「お客様」などでわかるとおり、「下から目線」で対応します。が、「下から目線」なんて感覚自体が、海外にはまあ理解できません。「謙遜」を英語やフランス語で説明しようものなら、「日本人取り扱い説明書」くらいの量になってしまいます。

"All passengers must leave this train at Kyoto."を、"must"の隠し味も加味して面白おかしく・・・・・・日本語訳すると、

「近鉄様が乗客どもに指示する。京都で全員降りんかい」

となります。

お客様に失礼ではないのか…と思うのが「日本的価値観」、それが全世界で通用する普遍的価値感だと思った人は「国際的田舎者」。

日本人的には"Please"を使いたくなるけれど、そこを敢えて"must"で表現している…それも"get off"など「降りる」を直訳せず、"leave"を使っているところにも、誰が作ったかわかりませんがものすごく言葉のセンスを感じます。プロのお仕事やな~と。

なお、誤解なきよう書いておくと、"Please"を使った表現は全然間違いではありません。芸術並みの繊細さがある外国語の表現を、やれ正しい、やれ間違ってるにこだわるところが、日本人の語学音痴たるところの一つです。絵や俳句に正しいも間違いもなかろうに。

 

「スボンにベルトつけるなんて"must"だ」

最近、こんな表現を耳にするようになりましたが、英語をある程度知っている人は、"must"なんて気軽に使うべきではないということを知っています。ヘタにネイティブに使ったら、怒られるどころか職さえ失いかねない、ってのはオーバーだったらいいのですが。

"must"は、使用上の注意をよく読んでお使い下さい。

 

 

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