昭和考古学とブログエッセイの旅

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一アメフト観戦者から見る日大アメフト悪質タックル事件・・・の教訓から学ぼう中国古典のことば

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29日、関東学生アメフト連盟(以下「学連」)による規律委員会の調査結果が発表されました。
内田前監督、井上前コーチが、永久追放にあたる「除名」処分を受けることは事前に漏れてはいたものの、いざ連盟の口から出るとその重みは違います。
除名処分は規定により、理事会では決まらず総会で最終決定をする必要がある、つまりまだ正式決定ではないですが(TVの編集では切られてると思われ)、覆ることはないでしょう。
事実上の副監督にあたる森HCは無期限資格停止、当事者の宮川選手、そして日大アメフト部は今シーズン(来年3月末まで)の公式試合の出場資格停止となりました。

 

学連の判断は至って理性的な判断だと感じます。説明も具体的でわかりやすかったですし。
結論から申し上げると、学連は宮川選手の証言をほぼ採用した形となりました。
その理由も、彼の証言の一貫性だけではなく、周囲への聞き取りでも宮川選手の方が正しいという証言が得られたから。
それ以上に、学連の調査でも内田・井上の両名は「嘘」を貫き、選手を守るべき監督・コーチが守るべき人間を守らなかった。そこが大きいとみました。
この決定は絶対ではなく、不満があれば「上訴」することも可能なのですが、したらしたで日大へのバッシングが強くなることは間違いなし。
今は傷が日大という核に達している状態なので、これ以上傷がつくと「本体」すら危ういことになりかねない。日大はそこまでギャンブルするかどうか。


しかし、今回はこれがテーマではありません。そこはわたくしBEのぶ、他の人とは見る角度を変え、中国古典の言葉を軸に日大アメフト事件を語っていきます。

 

天網恢恢疎にして漏らさず

両名の証言を嘘と判断した決定的なシーンは、

内田:

「(反則行為があった時)インカムを落として拾っていたので見てませんでした」

と連盟に説明していました。


アメフトでは、コーチがスタジアムを高所から俯瞰できる位置にもいます。
野球でも打者のタイプによって守備位置を変えますが、アメフトは「選手の位置が5cmずれたらアウト」と言われるほど、フォーメーションがゲームの展開を左右するスポーツです。
インカム(トランシーバー)は、指示通りにフォーメーションが組まれているか、崩れていないかなどをチェックするためのツールです。
また、海の向こうのNFLでは、QB(クオーターバック)やディフェンスのキャプテンのヘルメットにはインカムが内蔵されていて、監督やコーチの指示がトランシーバーから直接飛んできます。

 

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他のスポーツと比べ、アメフトの監督がヘッドフォンとマイクをつけているのは、そういう理由があるのです。

で、連盟は彼の言うことが本当か、映像などで調べたところ、

・内田前監督は反則行為時、宮川選手の方を見ていた

・「インカムを落とした」と言ってるが、映像では落としたインカムを拾う仕草は一切ない

と、証言は虚偽であるという結論を下しました。

 

これが学連の口から出た時、私はこの言葉を口にしていました。

『天網恢恢(てんもうかいかい)疎にして漏らさず』やな」

 

 

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これは、『老子』という中国の古典に書かれている言葉です。原文は


「天網恢恢,疎而不失」
(天網恢恢、疎にして失わず)(73章)


なので、「天網恢恢疎にして失わず」でも正解です。

『老子』は、表現が直線的な『論語』や『孟子』などに比べ、曲線的かつ逆説的。数ある中国古典の中でも、解釈の難易度は最上級です。
『老子』をおいしくいただくには、それなりの人生経験、それも大きな挫折が1回以上必須とまで言われます。人生イケイケの10代20代が『老子』を読んでも、何わけのわからんこと言ってるんだこのクソジジイで終わると思います。
読み手の境遇や経験値によって読み方や解釈が180度ブレる書物は、世界でもあまりないでしょう。


しかしながら、『天網恢恢~』はその中でもまだストレートな方で、

「天網は目があらいようだが,悪人を漏らさず捕らえる。天道は厳正で悪事をはたらいた者には必ずその報いがある

ということを説いています。「お天道様は見ているよ」の中国版です。クリスチャンなら、「天網」「天道」を「神様」に変換するとスッと入ると思います。

 

この言葉を最初に知ったのは、意外な場所でした。
大阪に居住している場合、車の免許更新は門真と光明池という場所で行います。私の場合、当時の居住地からして南大阪の光明池の免許センターで更新するのが筋です。事実、一度を除いてすべて光明池で更新しています。
が、過去に一度だけ、日曜日に門真で更新したことがあります。日曜の門真の免許センターは有名歌手のコンサート並みの混みようですが、なぜわざわざ門真まで行ったのか。
光明池が土日祝の更新を行っていないので、どうしても土日に行かないといけなかった事情があったのでしょう。現時点でその事情が思い出せません。

その門真の更新者講習で、担当者がこんなことを言っていました。

「悪いことをしても逃げてはいけない。逃げても絶対捕まる。『天網恢恢疎にして漏らさず』!」

この言葉が今でも脳に焼き付いています。
講習の度に言っている可能性があるので、門真で更新した人は、少なからず聞いたことがあるかもしれません。

 

今回の件ほど、『天網恢恢疎にして漏らさず』がピタリと合う案件はありません。
内田前監督が、記者会見どころか学連にまでしらを切ろうとしたのは、
「そんな証拠が残っているわけがない」
という計算があったのだと思います。実際、証言に関してはほぼ水掛け論になっており、これ以上言い合いしても無駄と関学側が打ち切り宣言しています。

しかし、内田氏は油断していました。今はインターネット、SNSという「天網」があり、それらが「疎にして漏らさず」の役目をしていることを。
学連がどの映像を判断材料にしたのかはわかりません。ようつべにUPされている動画も参考にしたとは言っているものの、「独自に入手したデータ」もあるというので、第三者から提供された映像かもしれません。
ただ確実なのは、もしも誰かが映像として撮っていなかったら、ネットがなかったら、SNSで拡散していなかったら・・・水掛け論になり日大思う壺。被害者の関学が泣き寝入りの案件だったということ。
言い方を変えれば、内田氏は時代の最先端についていけなかった「オールドタイプ」だったのでしょう。
除名処分の理由はそれだけではないですが、この嘘が、
「この期に及んでまだ嘘を申すか!」
と学連の逆鱗に触れてしまったことは明らかでしょう。それほど「除名」は重いのです。

 


天知る地知る我知る子知る

 

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この言葉は、楊震(ようしん。西暦54-124)という後漢の政治家の言葉です。
楊震は、中国史に残る清廉潔白な役人(中国語で”清官”)として知られており、『三国志』に詳しい人なら、曹操の「鶏肋」の故事で知られる楊修の曽祖父にあたります。

中国の歴史では「清官」が歴史や民間伝承によく出てきます。日本では知られていないですが、中国版大岡越前or遠山の金さんこと「包青天」は、中国人の間で知らない人はいません。


が、悪い意味で純真な江戸時代の儒者は、、

「ああ、中国には清廉潔白な人ばかりなんだ!」

と拡大解釈(≒妄想)し、現実を見ないまま中国を過度に理想化しました。そして、

「ああ、日本はなんてダメなんだ!」

と現実に目を背け、叩き始めました。
ネットで賑わっている左右イデオロギー論で述べるなら、江戸の儒学者は新井白石以外、全員「反日日本人」「パヨク」です(笑)
マスコミは中国の悪いところを報道しない、やたら美化する傾向があるとかうんぬん・・・とネットでは言われていますが、そんなもの江戸時代からの伝統文化です。今さら驚くことはない。

 

しかし、中国史に「清廉潔白な人」ばかり出てくるということは、現実は逆なのです。
こんなことを言っていた人がいました。

「『論語』にも『孟子』にもいろいろと書いているが、本当に中国が「そんな世界」なら、書物として残っているわけがない。


今の中国人見てみろ、『論語』で孔子が説いた世界と逆でしょ?


昔の、リアルな中国人の世界は、『論語』『孟子』とは真逆の世界・・・

「包青天」や主君に忠実な諸葛孔明が持ち上げられるということは、それだけ腐敗役人やすぐ主君を裏切る奴が多かったということ。
日本で石川五エ門やねずみ小僧のような泥棒が有名なのも、それだけ治安が良かったことの裏返し」

当時20歳、物事は「裏読み」しなさい、まっすぐな日本人のものの見方がかえって物事の是非を誤らせるという、深ぁ~~い教えでした。
しかも、この発言の主が中国人(日本語ペラペラの上海外国語大学教授)だったことが、また面白い。

 

楊震の話に戻ります。
ある日、彼によって役人に採用された王密という人が、
お礼とばかりに「黄金もなか」を持ってきました。もちろん賄賂です。
楊震はそんなもの要らぬと断るのですが、王密は彼に耳打ちします。
「いえいえ、誰も知らないことですよ♪」

 

楊震は静かに言いました。

 

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「それは違うぞ。天が知り、地が知っている。それ以前に私本人が知っているし貴君も知っているじゃないか」
(天知る、地知る、我知る、子知る)


王密は己の所業を恥じ、そそくさと帰っていったそうな。
「後漢書楊震伝」という歴史書のエピソードですが、このエピソードから楊震は「四知先生」として中国でも知られています。
「黄金もなか」を断る楊震は格好いい。私ならおいしくいただきますがね(オイ

この言葉が後世、
「悪事をしても、誰かが見てるからいつかバレますよ」
という意味として使われることになりました。


オープン戦だから映像なんて残っているわけがない、誰も見ていない、知らないもんねで逃げ切ろうとした両名。
しかしあのタックルをした瞬間の、内田氏の映像が残っていようとは。大多数は見逃していても、お天道様は見逃さなかったのです。

 

結果的には、keroyonさんの

 に尽きます。

 「天道に親なし、常に善人に与(くみ)す」とは、「天はえこひいきしたりはしない、正義は最後に勝つのだよ」という意味ですが、『老子』にしては理想論が過ぎた言葉なので、のちの時代に追加されたものではないかと言われています。

これを踏まえて『史記』の司馬遷は、正義が破れたいくつかの例を挙げ、

「天道、是か非か」

(超訳:悪人が世にはばかるこの世に、正義なんて存在するのだろうか)

と、血を吐くような言葉を残しています。

 

しかし、今回の件は「除名」という処分でひとまず「善人に与す」こととなりましたが、あとは日大の自浄作用に期待するしかないですね。

 

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