昭和考古学とブログエッセイの旅

昭和の遺物を訪ねて考察する、『昭和考古学』の世界へようこそ

アメフト観戦者から見る日大アメフト騒動

 

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日大のアメフトの「殺人タックル」が世間を騒がせていることは、テレビ・ラジオ、そしてネットでも話題になっていることから、知っていることでしょう。

 

実は私、大学に入ったらアメフトをやりたかったと希望していたほどでした。ランニングバック(RB)希望とポジションまで決めていたほどでした。

まあ、アメフト部以前に大学に入れなかったというオチなのですが、島流しならぬ「大陸流し」で中国に留学した際、同期(っても年上)に偶然、大学アメフトの元選手がおり意気投合。アメフト?何それおいしいの?と知名度ゼロだった当時の中国に、せめて防具が要らないコンタクトプレー禁止のタッチアメフトを啓蒙させようと地元の体育大学に殴り込んだこともありました。

大学でアメフトをやるという夢は潰えたものの、その後NFLを見たりして目を肥やし、観戦歴は20年以上。アメフトのルールはそこらへんの一般人よりは知ってるぞとは思っています。

 

 

日大関学アメフト

それだけに、日大アメフト騒動の発端を聞いた時は、どんなプレーをやらかしたんだ?と必死にようつべで映像を探し(当時は映像が1つしかなかった)、見てみました。

それを見た私は、PCの前で一人、大声をあげました。

 

こらあかんわ!!!

 

元アメフト選手やアメフトに強いジャーナリストも、

「あんなプレイ、アメフトを数十年見てきたが見たことない!!」

と全員口をあんぐりさせていましたが、私も同意見です。

もともと、この騒動の発端はSNSから火がつきました。

アメフト攻撃側のQB(クオーターバック)が味方にパスを回し、ボールの行き先に全員が集中していた時に発生した反則プレー。アメフトをずっと見てきた私から見ると、「みんな(こっちを)見てないからこのうちにQBを潰してしまえ」と、故意どころか悪意でタックルを仕掛けたのだと。

関学側も、ボールの行方しか見ておらずQBがタックルされたのはTwitterで拡散された映像で確認しただけ、ベンチに下がった後もQBから「タックルされた」という事実しか聞いていないと認めています。

しかし、目撃者がいました。観客です。ネットです。

今でこそ誰でもツッコミを入れられますが、もしネットがなかったら、SNSがなかったら、この事件は「水掛け論」で終わっていたでしょう。もしも映像に残らず、知らない記憶にないと日大に惚(とぼ)けられたら、関学は泣き寝入りせざるを得ない。関学のディレクターも記者会見で、怒りを抑えながら言っていました。

 

それ以前に、アメフトでは「ボールを持たない選手」「真後ろからのタックル」は反則というルールです。審判はあおタックルを間近で見ており、即ファウルを取っていましたが、退場勧告のファウルではなくふつうのファウル。サッカーならイエローカードにもなりません。審判の目は節穴かと、関学はこれにもかなり怒っていました。

(※これに関しては、関学からの抗議を受け正式にジャッジを訂正しています)

 

結果的に、無防備のままタックルを仕掛けられたQBは全治三週間のケガをしましたが、「あれでよく3週間で済んだな」というのが私の正直な感想です。

アメフトは、身体をかなり鍛えておかないと死にかねない激しいスポーツなので、被害者も身体を鍛えていたからこその3週間。いくら防具をつけて鍛えているとはいえ、真後ろから無防備の状態でタックルされたら背骨に支障が出てもおかしくない。我々ふつうの人があんなタックルを食らったら、おそらく死んでますわな。

 

これだけでも十分アウトなのですが、日大フェニックスの内田監督のコメントが火をつけてしまいました。

「あれぐらいやらないと勝てない。やらせている私の責任」

「殺人タックル」を肯定してしまいました。

私がこの発言を聞いてパッと思い出したのが、16年前に行われたFIFA日韓ワールドカップの韓国vsイタリア戦。

 

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イタリア選手の後頭部を、韓国の選手が思い切り蹴ったプレーがありました。衝撃的すぎてサッカーを全然知らない私でも、これは覚えています。

この試合を私は出張中の中国で見ていたのですが、中国の罵倒ぶりはそれはすごかった。中国人の怒りと殺気が突き刺さり、痛いほどでした。一緒に見ていたビジネスパートナーの朝鮮族(中国籍の朝鮮人)が、恥ずかしい・・・僕のこと朝鮮人って(この場で)絶対言わないで、殺される・・・と本気で怯えていました。

これはワールドカップ屈指の「迷シーン」となりましたが、蹴った方は数年後、「わざと蹴った」と発言しています。その上で、「イタリアに勝つため、チームを鼓舞するための反則技術」と意味不明な供述をしていましたが、これと同じ発言を監督は放ってしまったのです。

しかし、「私の責任」と言いながら監督は、騒ぎが大きくなると加害者の選手を庇うこともなく、自分だけ雲隠れ。言葉と行動が乖離した姿がさらに火をつけることに。

 

またさらに、関学は日大に対しこのプレーに対する経緯説明と謝罪を求めたものの、日大はスルーしました。うやむやにする気マンマンだったのでしょう。

無視と受け取った関学側は、即記者会見を開き日大を非難。そこからテレビでも大きく取り上げられることとなり、逃げる日大側と筋を通す関学の対応が対称的だとネットでも話題になっていました。

 

記者会見をノーカットで見ればわかりますが、「殺人タックル」をした選手は、試合の後に謝罪をしようと関学を訪れていました。

しかし、同伴していたのが責任者である監督ではなくコーチだったこともあり、関学は筋違いと門前払いをしています。関学側もこれに対し、謝罪に来た気持ちは理解するけれども、責任者の監督が来ずに選手だけに頭下げさせに来るって・・・何考えてるんだと記者会見で述べていました。関学の方が、よほど加害選手のことを考えて心配していましたね。

 

 

関学がここまで神経質になる理由

関学がこの殺人的行為に怒り、一歩も引かない姿勢を見せている理由は、おそらくこれにあるのではないかと思います。

mainichi.jp

2016年、アメフトの試合中に関西学院高等部の選手が亡くなっているのです。これはプレー中に相手選手と接触し、くも膜下出血で亡くなったもので、「事件」ではなく不幸な事故です。

ちなみに、関西学院アメフトは大学も名門ですが、高校もヤングアメフト界を引っ張る超名門です。

 

 今回の事件で被害を受けた関学QBは、実はこの死亡事故の時のメンバーでした。

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チームメイトが持っている遺影が亡くなった高校生ですが、関学、いや被害者のQBが絶対許さんと激怒しているのも、この不慮の事故が頭にあるからでしょう。チームメイトが不幸にもアメフトで亡くなった・・・次は自分が「殺されかけた」と。

関学側も、

「私たち(チームや大学)も怒っているけど、被害者とそのご家族はもっと怒ってますからね

と公式に述べています。

この事故があったからこそ、日大の舐めまくった態度に怒りを持っているのだと思います。 

 

 監督、あなた煽ってるの?それともバカなの?

そして19日の土曜日、雲隠れしていた内田監督が公の場にあらわれました。

ようやく謝罪する気になったか・・・とノーカットで彼の発言を聞いていたのですが、それを聞いていた私は自分の耳を疑いました。

「かんさいがくいん・・・」

ようつべの動画を何度も再生しました。耳が遠くなったかなと、ヘッドフォンでも聞いてみました。しかし、「かんさいがくいん」と言っているのです。

そして、私は独りでつぶやいていました。

 

こらあかんわ……

 

 

関西学院大学の「関西」は「かんせい」と読みます。「関西」は「かんさい」と読むのがデフォルト設定ですが、関西には「かんさい」と読む「関西大学」もあるので、関西人でも知らない人はいます。正直、私も大学の受験生になるまで「かんさいがくいん」と思ってましたからね。ふつうなら「かんさい」と言ってしまってもおかしくない。

もっとも、関西学院の正式名称は「くわんせいがくいん」で、英語名もKWANSEIとなっています。今でこそ読み方が整理されて一つですが、明治時代にはまだ、「かん」と「くわん」で読み方の区別が残っていたということです。

 

 

ネットでも、

「『かんさい』と読んでしまうのは当然」

「ふつうは『関学』って略すから仕方ないだろ」

というコメントがけっこう多いですが、こんなコメントをする人たちは、アメフトのことを全然知らない外野なんだろうなと。

日大と関学は、学生アメフト界では名門中の名門。プロ野球で言えば読売巨人軍と阪神タイガースです。それも、学生日本一を決める「甲子園ボウル」という大会の常連であり、過去に29回も対戦しています。その上、去年の2017年も関学vs日大。内田監督が指揮しています。これはつい数ヶ月前の話です。

内田監督も日大アメフト選手としてフィールドで戦い、去年も甲子園ボウルで関学と死闘を繰り広げた以上、ライバルチームの名前を知らないなんて200%あり得ない。ずっと関学と略していたからという以前の問題です。

例えるなら、春か夏の甲子園で優勝した関東の高校の監督が、決勝戦で対戦した大阪桐蔭高校を「きりかげ」と言うようなもの。読売ジャイアンツの監督が、阪神タイガースや中日ドラゴンズを「はんじん」「ちゅうじつ」と言ったら頭おかしいと、野球ファンなら認識できるでしょう。アメフトに関わっている人が、おっと間違えましたでは済まされません。

この人がこの年齢で一般常識がない大馬鹿ではなかったら、故意に煽っている、もしくは「関学め、この俺様に恥をかかせやがって。俺は迷惑してんだよ!!」という抵抗としか思えません。

少なくとも、何度も対戦したライバルの名前を間違えるなんて、この監督は相手チームへのリスペクトが全くない。だからこそあんなプレーを選手に求め、いや、仮に要求していなくてもこの監督下ならさもありなんと、今日のVTRを見てひしひしと感じました。

 

ところで、この「言い間違い」問題、地元の神戸新聞が煽りに煽っています。どうやら逆鱗に触れてしまったようです。

www.kobe-np.co.jp

地元からすれば、「かんせいがくいん」を「かんさいがくいん」と呼ばれるのはかなりの屈辱。もしかして、内田監督もそれをわかってdisっていたのかもしれません。

しかし、神戸新聞のことなので記者など中の人には関学OBもいるはず。日大アメフト関連記事を書いているのは関学OBでしょ、神戸新聞さん(笑

 

日大の対応が及び腰な理由(推測)

内田監督・・・いや、もう監督を辞任したから「氏」ですけど、彼は日大の理事もやっているそうです。それも人事を統括しているのだとか。

私は、理事を辞めろとまでは言いません。ネットでは外野が感情や集団心理にまかせて叩いていますが、それとこれとは別として考えるべき。

まずは、あの「事件」が起こった経緯を明らかにすべきで、関学側もそれを求めています。

もし監督の指示があったなら、その時は潔くやめるべし。内田氏も羽田空港でのインタビューで、「それはそれ」と言っていますが、これはさすがに同意します。あくまで現時点ではね。

 

ところで、大学でも会社でも家庭でも、絶対的権力を握り組織を自分の意のままに操る方法があります。それは、「人事権」と「予算編成権」を握ること。要は「カネ」と「ヒト」を握ったものが「最高権力者」なのです。

会社でも、誰がいちばん偉いのか。代表取締役社長でも会長でもありません。人事と予算編成の最終決定権を握った人です。社長や会長がそれを渡してしまうと、代表取締役社長なんてただの飾りです、偉い人にはそれがわからんのです!となります。

 

それが顕著になった歴史の実例があります。昭和初期の旧帝国海軍です。

私が「A級日本史」と呼んでいる、表層の歴史では語られないところで、海軍の「内部クーデター」が昭和初期に起こっていました。

詳しいことは省略しますが、「内部クーデター」の前の海軍内の予算編成権と人事権は、海軍大臣が一括して握っていました。

軍令部が

「『大和』みたいな戦艦欲しいよ!」

と言っても、

「金ねーよ!」

と大臣がNOと言ったら終わり。

軍令部「こんな軍艦じゃ国を守れない!」

となっても、

大臣「与えられた軍備でどう国を守るのか考えるのが軍令部だろ!」

と一喝されたらそれまで。

これはこれで海軍大臣の独裁という見方もありますが、大臣には海外経験もある視野の広い人物が選ばれ、昭和初期まではバランスが取れていました。

それに不満を持っていた軍令部は、「人事権よこせ」「予算編成権よこせ」とクーデターを起こし成功。軍令部はこれでやりたい放題、海軍省と軍令部のパワーバランスが崩れ機能不全に陥ってしまいました。

その後大和型戦艦を作ったのも、アメリカと戦争したのも、根っこをたどるとすべてこのクーデターに行き着きます。

これで海軍は滅亡への片道切符を手に握り、大日本帝国を道連れに地獄の入り口へとまっしぐら。海軍から日本近代史を見ると、「その時歴史が動いた」、いや「その時海軍が壊れた」に相当する大事件なのですが、驚くほど知られていません。

なので、これについては機会があればまた・・・いや、いつか必ず書かないといけないという使命感だけが残っています。

 

毎度のごとく話が外れましたが、内田氏は人事だけではなく、運動部の予算編成権も握っています。上に挙げたように、彼が日大運動部の実質的な最高権力者と言ってもいい。日大が内田氏の対応に対して腫れ物に触るようなのも、「ヒト」と「カネ」の両方を握る人間に対しては束になってかかっても無力だということを示しています。

 

あの91番は・・・

実際にタックルをした日大の91番の選手はどうなったのか。

話によると退部したそうですが、退部したからこそ、真実を語っていただきたいと希望します。自分の行為がアメフト界に黒い雲を覆わせたということを自覚し、洗いざらい話してしまうべきでしょう。それが「責任」というものです。

それで自分の独断でやったのなら、それは庇えない。退部したのは正解です。

しかし、監督の指示だったらどうなのか。やってしまったことは取り消すことができないですが、退部する必要はあるのかと。

不確定な情報ですが、内田氏は91番選手に、

「QB(クォーターバック)を殺したら試合に出してやる」

と言ったそうです。これを逆読みすれば、

「QB潰さんと試合に出さんぞ」

ということ。選手は試合に出たいばかりに、本当はやってはいけないことをやってしまった・・・というシナリオが成り立ちます。監督が「『言葉のあや』だった」と弁解しても、それを含めて言い聞かせるのがマネージメントの基本。小学生の言い訳にしか聞こえません。

あのタックルは、客観的に見ても「『殺そう』とした」ことは明らか。ただ、観客が映像で撮っていたことと、SNSで拡散してしまったのは誤算だったのでしょう。

監督の指示があったからといって、91番の選手の行為は帳消しになりません。監督に言われてやったのではい無罪、と大人の世界は甘くありません。

しかし、これで好きだったアメフトの道を閉ざされるのは、一人の若者の才能を壊すようで忍びないと思います。それ以前に、現在かなり精神的に追い詰められていると思います。

実は、関学アメフト部の部長は心理学の専門家(米国留学中)で、この「事件」を知り自チームの精神ケアをアメリカから指示しています。推測ですが、おそらく加害選手のケアも必要ではないか、選手を叩くなと「心理学者」として指示が入ったのかもしれません。

 

なので、個人的に91番に提言したい。

・まずはQBに直接謝罪しなさい。誠心誠意謝罪すれば、QBも理解してくれると思う

・その上で、記者会見を開いて洗いざらい言ってしまいなさい。日大はあなたを全くフォローしていない。むしろ監督側に立ってあなたを捨てにかかっている。関学の方があなたを心配しているよ

自分なりにやれることをやって、人事を尽くして天命を待て。

それで彼の人生はめちゃくちゃになる可能性があります。しかし、長年心に大きなトゲが刺さってもやもやしながら生きるより、すべて真っ白にした方が、精神衛生上にもよろしい。

91番より2倍以上人生を生きた人間として、そしてアメフトをこれからも見続ける人間として、91番に対しては真実がわかるまでそっとしてあげてほしいと切に願います。叩くのは真実が明らかになってからでいい。

 

そして最後に、ファンが知りたいのは真実です。何故あんなプレイをしたのか、誰が指示したのか。これが明確になればいいのですが、それでも隠そう、穏便に済ませて極力「なかったこと」にする日大の対応には、もはや大学、いや、それでも教育機関なのかと憤りを隠せません。

 

==追記==

5月22日、タックルをした選手が記者会見を開きました。相当の覚悟があったと思いますが、20歳の若者が実に立派でした。

その件について続きを書いているので、よろしければどうぞ。

parupuntenobu.hatenablog.jp