昭和考古学とブログエッセイの旅

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シリアの宗教からシリア内戦の原因を考察する

シリアの国旗

今シリアが荒れています。

 

シリア化学兵器「使用確認」 | 2017/4/6(木) 21:04 - Yahoo!ニュース

 

米、対シリア単独行動を示唆「アサド大統領一線越えた」 (産経新聞) - Yahoo!ニュース

 

米ミサイル攻撃で複数の死者、シリア空軍基地ほぼ壊滅か (AFP=時事) - Yahoo!ニュース

 

四捨五入すると既に20年前になりますが、バックパッカーとしてシリアを旅したことがあります。
当時のシリアは物価が安く、治安も安定していたので、旅行するには心地よい場所でした。しかし、何といってもシリアの人々がやけに優しく、今まで行った国の中でもトップ3に入るほどおもてなしが行き届き、笑顔あふれる国でした。
しかし今、映像を見る限り、あの笑顔を見ることはありません。
かつてその場に行き、この目で見て、足で歩いてきた街が廃墟になっている。
ものすごく複雑な気分です。

複雑な気分になるだけじゃあかん、正しくシリア情勢を伝えないとあかん!と妙な正義感が湧き、急ぎで書いてみました。

 

シリアは中東にあるため、日本人には馴染みがほとんどありません。
接点と言えば、遺跡好きならパルミラ遺跡、美容関係ならアレッポの石鹸くらいでしょうか。

 

では、何故シリアがここまで荒れているのか。

これには、一つの原因では語れない、複雑な要因が絡んでいます。

一つは宗教と国内政治、もう一つは大国が絡んだ国際政治です。

2つを語ると長くなるので、まずは「宗教」という面でシリア内戦を見ていこうと思います。

 

シリアの宗教

シリアの宗教はイスラム教というイメージがありますが、それは半分は正解。
シリアの宗教分布を見てみましょう。

 

  • イスラム教スンナ(スンニー)派:68%
  • イスラム教アラウィー派:13%
  • イスラム教その他:6%
  • キリスト教徒:12%
  • その他:1%

シリア、イコールガチのイスラム教国というイメージかある方には、衝撃的な分布です。意外に思われるかもしれませんが、キリスト教徒も人口の10%ほどいるのです。

10%といっても約220万人いるわけなので、コミュニティとしてはかなり大きい。

「現存する世界最古の都市」と言われている首都ダマスカスなどでは、キリスト教徒はふつうに見るし教会もふつうにあります。

 

シリアのダマスカスにある聖アナニア教会

 

シリアダマスカスにある教会

シリアのダマスカス旧市街にある、キリスト教の教会です。

遺跡ではありません。現役の教会ですよ~。


田舎に行くと、キリスト教徒だけで固まって住んでいる村もあり、そこではキリスト教徒率100%です。
十字架のネックレスをつけ髪の毛も隠さない女性も、けっこう見かけました。
ただの旅行者でも、
「ああ、彼女はキリスト教徒なんだな」
ということが、外見でわかります。

 

シリア情勢でのキー問題は、イスラム教の中での宗派対立です。
イスラム教も中身を開けてみるとかなりの宗派に分かれています。有名なところでは、「スンナ派(スンニー派)」と「シーア派」がありますが、シリアの場合は、
政府(大統領):アラウィー派
国民の多数派:スンナ派
というところに、内戦のポイントが隠されています。

 

イスラム教アラウィー派とは?

アラウィー派は、シリアとレバノンにだけ存在している宗派の一つです。特にシリアは、西部にある海沿いの街、ラタキアを中心にコミュニティを築いています。イスラム教全体で見ると、超をつけても良いマイナー宗派です。石部金吉のスンナ派の人間の中には、アラウィー派の特異さゆえにイスラム教と認めない人もいます。

上に書いたとおり、アラウィー派はシリアの人口の13%ですが、ラタキア周辺ではほとんどがアラウィー派です。
イスラム教の教義や習慣などは、書くとキリがないので省略しますが、アラウィー派の特徴は、

 

1.ある程度の偶像崇拝はOK

イスラム教は、偶像崇拝は基本的にダメです。アッラー(神様)や預言者ムハンマドのお姿を絵にするなどもってのほか。
宗教・政治的指導者の写真をかざすのも、スンナ派は基本的にダメです。サウジアラビアなどのガチガチ保守派の国では、アニメすらダメという所もあります*1。サウジがポケモン禁止なのは、知る人ぞ知る有名な話。
サウジアラビアやパキスタン等の、超ウルトラ保守的な国だと、写真に撮られることすら嫌がる人もいますが、アラウィー派など一部の宗派では全然OKなのです。

シリアでは大統領の写真が街角でふつうに飾られていたし、シーア派のイランでは、宗教指導者の写真や肖像画の雨あられでした。スンナ派にはそれが許せない。

我が日本の神道に偶像崇拝禁止の戒律はありませんが、
「神様のお姿を晒すのは恐れ多い」
という理由で、神様の肖像の写真撮影やテレビ撮影が禁止だったり、神様が描かれた部分を布や紙で隠している神社や氏子がいます。

 

2.キリスト教の祝日を祝う

キリスト教とイスラム教は、実は異母兄弟のような関係です。
イスラム教は、キリスト教を「兄貴」として認めています
イエス・キリストも「預言者の一人」として認めていて、神がイエスを地上に遣わしたものの、正しい教えを説いても世の中が良くならなかった。神は「最後の預言者」として最終兵器のムハンマドを通したものがイスラム教、というストーリーになっています。
アラウィー派はキリスト教といつの間にか融合し、クリスマス・イースターなどのキリスト教の祝日もお祝いしたりしています。

 

ここで、ある仮説が思い浮かびます。

イスラム教がシリアに広まるまでは、この地はキリスト教徒が多く定着していた。

彼らがイスラム教に改宗する際、元のキリスト教の教義や行事を完全に捨てることはできず、アラウィー派として残った。

私はこう推測しています。

宣教師の神対応ならぬ神解釈で、土着宗教が混ざったアイルランドのカトリックや、カトリックのマリア様信仰と神道が合体した長崎県独特のキリスト教の例もあるので、この仮説はまんざらでもないかなと。

 

3.アリーを神格化

イスラム教の一神教なので、神様はアッラーのみです。

よく「アラーの神」という言い方をする人がいますが、「アラー」という言葉が「神」という意味なので、「アラーの神」だと屋根の上にまた屋根をかけるような言い方になり、厳密には間違いです。

預言者のムハンマドでさえ、あくまで預言者であり神様ではありません。

しかしアラウィー派ではイスラム帝国の初代カリフ、アリーを「准アラー」「アラーの化身」として神格化しています。崇拝の対象もアリーなのが大きな特徴です。

シーア派も宗教指導者などを聖人として扱うことはありますが、さすがに神格化はしていません。

もちろん、スンナ派にとっては認めることはできず、シーア派の人にとっても極端すぎはしないかと理解できない所です。

 

4.飲酒OK

酒を手放せない飲ん兵衛にとっては、アラブは生き地獄です。
なぜならば、お酒が飲めないから。
実際は、トルコやエジプト、モロッコなど政教分離がきちんと法で定められている国はOKだし、NGの国でもホテルの中だけとかならOKという、異教徒向けの配慮をしてくれています。
でも、イスラム法が法律になっている国では、売っていないし持ち込みも禁止。
外国人・異教徒でも問答無用です。
まあ、実際はヤミでお酒が売られていたりするのですが、飲酒がバレるとむち打ち50回の刑を食らうこととなります。鞭打ち50回といえば、身体が弱い人間は耐えられるものではなく、ほぼ死刑扱いです。
アルコール中毒な方や禁酒したい方は、イスラム法が法律の国に行けば克服できるかもしれません。酒を飲むのに命を賭けないといけないですから。

しかし、ノンアルコール飲料はふつうに売っています。
以前エジプトに行った時、ノンアルコールビールを機内で飲んだことがあるのですが、この世の飲み物とは思えないくらいマズかったです。

 

アラウィー派は、もちろん酔っ払うほどは禁物ですが、たしなむ程度の飲酒は問題ないそうです。

シリアに住んでいるキリスト教徒はどうかというと、ふつうに自家製のお酒を飲んで酔っ払っているし、イスラム教徒がう○このように忌み嫌う豚肉も、ふつうに食べています。

 

5.大巡礼をしない

イスラム教には、

「五つの柱」(五行)

と呼ばれる、イスラム教徒なら必ず行うべき5つの義務があります。

 

1)信仰告白

2)(1日5回の)礼拝

3)喜捨(ザカート)

4)断食(ラマダーン)

その最後に挙げられるのが、

5)大巡礼(ハッジ)

です。

イスラム教のマッカ(メッカ)へ巡礼することで、イスラム教徒なら一生に一度は経験しておかなければならない、と定められています。日本風に言えば江戸時代のお伊勢さん参りのようなものです。

毎年イスラーム暦の12月の大巡礼のシーズンになると、世界中から人々がマッカにやって来ます。大巡礼の時は皆白い布1枚のみを巻き、それは世界の大統領であろうが王様だろうが同じ。神の下ではみんな平等な一イスラム教徒となります。

 

しかし、アラウィー派にはイスラム教で最も大切なこの大巡礼を否定し、全く行いません。

 

 

6.輪廻転生を信じている

あの仏教でおなじみの輪廻転生です。
これがいちばんビックリしたのではなないでしょうか。

しかし中東の歴史を勉強すると、不思議でもなんでもないんです。

 

解説の前に、主な宗教の「死後」についてまとめます。

信じるものは天国へどうぞ!信じない人は地獄行き(最後の審判付き)
キリスト教一般、イスラム教、ゾロアスター教

※そもそも「最後の審判」はゾロアスター教がオリジナル。

 

信じる者は全員極楽浄土へご案内~♪
日本仏教(天台宗、浄土宗、浄土真宗本願寺派など)

 

守護神になり子孫・家を守る

神道(出雲大社の見解)

 ※伊勢神宮はノーコメントです

 

いわゆる輪廻転生(に近いものも含む)
仏教一般(上座部など)、ヒンドゥー教、原始キリスト教、古代エジプトの宗教

※宗教ではないですが、古代ギリシャのプラトンも輪廻転生の考えの持ち主

 

死ねば無(土)に帰る。それ以上でもそれ以下でもない
ユダヤ教

※社会主義、共産主義の思想もこれ。マルクスがユダヤ人なのでユダヤの考え方が反映されたのでしょう!?

 

死後の世界?何それおいしいの?(死後の世界の存在を否定)

儒教※1、道教※2、仏教(曹洞宗、臨済宗)

※1:『論語』でも孔子は「死後の世界、オカルトは語らず」と記され、弟子のオカルト話にも乗らなかったエピソードがあります。

※2:仙人になって不老不死、つまり「死なない」のが理想。日蓮正宗も「生きながら成仏」が究極の姿なので、少し近いかも

 

 

アラウィー派は、イスラム教の中でも輪廻転生を信じているグループです。
前世や来世という考え方がある、悪いことをしたら来世は犬畜生に生まれ変わるなど、日本人の考える輪廻転生と同じです。ここが、イスラムの他の宗派と大きく違うところです。

「なんで中東に輪廻転生?」

と疑問に思ってしまいそうですが、この考え、元々はメソポタミア文明時代からの中東地域の思想だったりします。

仏教から日本に入ったので東洋・インド生まれの思想を思われがちですが、そうじゃないのです。
我々にとってお馴染み中身をもう一つの死後の世界は、「三途の川」です。これも仏教か日本古来の死生観と思いがちですが、実はこれもメソポタミア文明が起源だったりします。
メソポタミアで発生した「マニ教」という宗教の考えがベースで、その死生観が東はインドや東南アジア、日本などへ、西はギリシャ等にも伝わっていきました。
マニ教自体は他の宗教に吸収されてほとんど残っていませんが、考え方は他の宗教と同化して残っています。
その影響で、一部ですが輪廻転生を信じているキリスト教徒やユダヤ教徒も、中東にはいたりします。

 

宗教対立から来るシリアの内戦

では何故宗教が内戦の原因になっているのか。

シリア国内では上に書いたとおり、

大統領:アラウィー派


国民の多数派:スンナ派

となっています。
国のトップが少数派のアラウィー派で、その他のアラウィー派がその特権に預かっている状態になっています。そのアラウィー派は、政治権力(秘密警察など)を使って長年多数派のスンナ派を抑圧してきました。
アサド親父大統領の時は、政治的自由はなくても社会的には安定していたので、国民の不満などはある程度押さえることができました。

 

では何故、政府側が政治的な自由や反政府組織を恐れて弾圧しているのか。
仮にシリアで民主選挙が行われ、スンナ派の大統領が誕生したとします。
すると今まで政治的に制限を受けてきたスンナ派が暴走し、少数派のアラウィー派が弾圧されるのは目に見えています。
最悪の場合、今ヨーロッパの頭痛の種になっているシリア難民と同じく、アラウィー派の人々が難民になって流入する可能性が大だし、宗派ごと滅ぼされる可能性もあります。
そうなると、アラウィー派も生き残るために武器を持って抵抗せざるを得ない。
また内戦が始まり、もう泥沼です。

 

更に、暴走は理性を伴いません。
アラウィー派だけをピンポイントに狙えばまだマシなのですが、こういう暴走は必ず無差別攻撃を生みます。
キリスト教徒や他のイスラムの宗派はアサド政権支持派層なので、異教徒である彼らも必ず巻き込まれます。そしてさらにグチャグチャになって行く・・・。

 

なので、「民主化」と簡単には言うけれど、導入するに出来ない事情もあったりするのです。
しかし、どこの国とは言いませんが、民主主義の押し売りをする某国がチャチを入れてきたりして、シリアにとってはとんだ大迷惑というわけです。

 

お次は、大国や周りの国の思惑も絡む、シリア情勢のお話を。

続きは下からどうぞ。

parupuntenobu.hatenablog.jp

 

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*1:トルコやエジプト、チュニジアなど、政教分離が憲法で定められてる+それが定着している国はOK。