昭和考古学とブログエッセイの旅

昭和の遺物を訪ねて考察する、『昭和考古学』の世界へようこそ

トーチカからの思考

日本人は、「一所懸命」「一心不乱」というように、「一」が大好き。一つのことを極めることを美学とします。ただし、それが生理的に合わない人もいます。それが私なのですが。

しかし、あくまで「本妻」は中国語。他の外国語はすべて「愛人」です。実用としての英語は、「愛人以上本妻以下」といったところでしょうか。

「外国語を一つ覚えることは、もう一つの目を作ることだ」

と誰かが言ったそうですが、「浮気」で視野が広がり、回り回って「本妻」の肥やしとなって彼女がより綺麗になる。こんな良い「浮気」はありません。ただし人間世界でやっちゃダメよ。

 

私の「愛人」の一つに、ロシア語があります。もう年齢が年齢なので、いまさらロシア語ペラペラになろうなんて思いません。読み書きができればそれで良し。それと脳の防腐剤として。外国語の勉強は、上述したとおり「もう一つの目を養う」ためでも、「脳の防腐剤」でも目的な自由。「ペラペラ」なんてただの飾りです、偉い人にはそれがわからんのです。

ロシア語というと、なんだかイメージがつきそうでつかないと思いますが、日本人にとっては近くて遠い言語。

それに、地理的には「お隣さん」ということをけっこう忘れがちです。東京からウラジオストックまで飛行機で2時間。普段から隣国だリンゴだと言っている中国より全然近いのです。

しかし、心理的にはまだまだ「いちばん近く、いちばん遠い国」なのです。

 

ロシア語は、日本人にとっては非常に難しいと言われる言語の一つです。

「ふつうは卒業まで4年間かかるか、ロシア語学科は8年必要」

外大のロシア語学科では、このような言葉が冗談半分で語り継がれています。

どこがどのように難しいのかは省略しますが、それだけに面白いことも確かです。
 
家中のBGMの一つとして、ロシアのラジオのLIVE放送を流すことがあります。21世紀のネット万能時代、クリック一つ、アプリ一つで「近くて遠い国」のラジオがリアルタイムで聞けるのは、一語学学習者としては非常にありがたい。

その昔、短波ラジオを持ち家のベランダに立ち、激しいノイズの隙間にかすかに聞こえる外国語に興奮したあの時は何やったんやろか?と。
ネットだとノイズもへったくれもない。嬉しい限りではあるものの、悪く言えば味気がない。人間とはこのように、わがままに出来ているのであります。


ロシアのラジオを聞いていると、

トーチカルー

という言葉が耳に入ります。
数分に一回…は言い過ぎですが、頻繁に耳にします。時によってはトーチカルトーチカルーとやたらうるさい時もある。
何や、この「トーチカルー」は???
いったん疑問に思ったら夜も眠れない調べ魔BEのぶ、この不眠症のもと、トーチカルーを推理してみました。

 

超難解と言われるロシア語も、いざ勉強してみるとリスニングは意外にそんなに難しくない気がします。「気がする」だけなのであくまで個人的感覚なのですが、音節ごとの発音がはっきりしているのか、耳に易しいかなとラジオを聞いてて感じます。
それもあり、「トーチカルー」は私の空耳とも思えない。

 

ヒントは、思ってもない斜め上からやって来ることがあります。

千年ほど前、北宋時代に欧陽脩(おうようしゅう)という詩人がいました。
彼は「初めて日本刀を手にした中国の著名人」とも言われており、『日本刀歌』という詩も残しています。
欧陽脩が有名たらしめているのは、詩より「三上」という言葉を残したこと。
「三上」とは良い考えが浮かぶ状況のことを記したもので、彼によると、

馬上

枕上

厠上

がその場所なんだとか。これ、どこかで聞いたことがあると思います。
これらを現代風に訳したら、

●馬上:電車や車の中。つまり通勤や車の運転中など

 

●枕上:布団やベッドの中
ノーベル賞を取った湯川秀樹が寝床で中間子の理論をひらめいたのは有名ですね。イギリスの詩人スコットは、「思い悩んだらさっさと寝ろ。朝七時には解決している」という言葉を残していますが、これも「枕上」の一つ。
誰や、「枕上」と書いて「夜の営みの最中」なんて想像したのは。

 

●厠上:トイレで出そう、出そうと気張ってる時のことです

 
この「三上」を逆読みすれば、考え事をするときは通勤時間や布団、トイレの中なんかがええんやで~、ってことを語ってると思います。


ある休みの日、昼飯を食おうと車を運転しながら・・・つまり「馬上」で急に「ひらめいた!」。

「『トーチカルー』の『トーチカ』って、あのトーチカちゃうんか?」

「あばれはっちゃく」のあれでした。こんなこと書いたら世代がバレそうですね。

 

それにしても、「あのトーチカ」って一体何ぞや?

「あのトーチカ」とは軍事用語の一種で、近代戦で弾除けなどのために鉄筋コンクリートで作った要塞陣地のことであります。といっても、軍事に詳しい人以外はトーチカなんてイメージがつきません。
これはインターネットの利器、百聞は一見に如かずで画像をどうぞ

 

 

トーチカ

日露戦争の旅順攻略の時、乃木将軍率いる第三軍が、コンクリートの壁から撃ってくるロシア軍にえらい苦しめられたことが映画でよく出てきますが、それがトーチカです。


そのトーチカがロシア語由来ということは、知識として頭の片隅に残ってはいました。が、この見るもいかついトーチカと、ラジオで頻発される「トーチカルー」が何の因果関係があるのか?まさかロシアは戦争のためにトーチカを国中に作っているとか?

 

頭の中で理屈をこねくり回しても答えは出てこないので、「トーチカ」を手元のロシア語辞書で調べてみました。

トーチカは

”точка”

と書きます。意味は「点」っちゅーことらしい。
ふーむ、点ね・・・。いまいちピンとこない。
しかし、辞書にはもう一つ、意味が。それは「ピリオド」。

" . "

のことですが、これでさすがに「ひらめいた!」ならぬ「わかった!」と。

つまり、「トーチカルー」とは・・・。


.ru

のことでした。.ruはお察しのとおり国ドメインのことです。
我らが日本国は”.jp”ですが、読みは「ドットジェイピー」。てっきりこの読み方は世界共通という、何の根拠もない先入観がありました。これが邪魔をしていたのです。ラジオでやたら出てくる「トーチカルー」は、番組のHPのアドレスかメルアドなどを言っていたのでしょう。


たかがトーチカでこれだけ思考が回り回ったわけですが、調べてみたら実に他愛もない。

が、たかがトーチカでこれだけ暇つぶし・・・もとい「思考の遊び」が出来るのも、ロシア語を勉強しているおかげだなと。

何にしろ、これでぐっすり寝れそうです。